
~ 締結軸力をCAEで検証 ~
今回の事例では、台形ねじを使ったボルト締結を再現したCAEモデルをご紹介します。使用するソルバーはLS-DynaのIMPLICITソルバーです。
使用するモデルは、ソケット(剛体)・ボルト・被締結物・ナットです。ソケット以外はMAT24を使用しています。
構造解析用CAEモデルにボルトプリロードを再現したい場合、*CONTACT_SURFACE_TO_SURFACE_INTERFERENCEやその他の方法で軸力を予め与えておくことがほとんどだと思います。ですが、今回は実際にボルト締結を再現してみます。
「台形ねじは緩みやすいので締結に適さない」と一般的に言われますが、なぜ緩むのか知っていますか?
普通に三角ねじを使用すればいいじゃない、というのは正論ですが、レースの世界では目的達成のために規格寸法ではないものを使用することが頻繁にあります。Google検索等で「Formula1 Wheel nut」と検索してみてください。なんと、ねじ山が2山未満のねじでホイールが固定されているのがわかります。もちろん、三角ねじではなく、台形ねじに近いプロファイルになっています。

ご存じのとおり、ボルト接合ではボルトに発生する軸力によりボルトが弾性変形し、その軸力により強大な摩擦力が発生することで締結構造を保持しています。私は「ねじ締結概論(酒井智次著)」を元にしたエクセルで締結成立性の計算をしています。
驚くことに、机上計算では「台形ねじで締結しても緩まない」という結果になります。(もちろん、大径にしてリード角を小さくしている場合)ぜひ計算してみてください。
ですが先人たちの経験上、緩みやすいことは明らかであり、実際に緩んでしまった原因を調査したいという依頼がありました。

上記のモデルを使用して、ボルト締結をLS-Dynaで再現します。机上計算では約95kNの締結軸力が発生するはずです。
ナット下面を拘束し、ソケットにトルクを与えます。
ですが、以下の解析結果では明らかに机上計算よりも低い軸力(76kN)となっていて、外力に対して軸力不足である結果になりました。
余談ですが、アニメーションの見栄えをよくするために動きを大きくしようと、ボルトを中空にして剛性を低くしましたがほとんど回転せずがっかりしました・・・。

そこで、ボルト締結解析と実験から推測された「軸力が机上計算よりも低下する原因」に対策を施してあげた状態のCAE結果が以下です。

上記のCAE解析結果では軸力が明らかに上昇し、92kNとなりました。本来発揮してほしい机上計算の軸力に近い値となり、緩む可能性が低下したことが確認できました。
この解析モデルでは、机上計算や実験では確認することができない部分の変形量や圧力分布を確認することができました。圧入などの条件でも同様にCAE解析でしか理解(測定)できない数値を確認することができるようになります。
性能予測だけではなく不具合の原因調査にもCAEを活用することで、理論的な対策と試作費用の低減、ノウハウの構築に繋げることができる事例でした。
ところで、台形ねじが緩んでしまうことがある理由、でしたね。ぜひ皆さんも検証してみてください。
今後も様々なケーススタディをご紹介していきます。不具合の原因調査から対策立案・試作での評価まで、様々なご要望に対応します。ぜひお気軽にご連絡ください。