「あと3%」が削れない設計者へ。極限の軽量化を実現する1ショット最適化の威力

 

32%、25%、65ポンド。これはGRMが自動車・モータースポーツ領域で達成した質量削減の実績数字です。しかし、ここで伝えたいのはその数字の大きさではありません。これらの結果が、いずれも「1回の解析で複数の荷重条件を同時に処理する」アプローチによって実現した、という事実です。

設計プロセスの中で「あと3%が削れない」という壁にぶつかる技術者は少なくありません。最適化を重ねても数字が動かなくなった時点で、多くの場合「ここが限界だ」という判断が下されます。しかし、GRMの経験では、その「限界」の多くは設計そのものの限界ではなく、最適化の組み立て方によって生まれた人工的な壁です。

1ショット最適化は、その壁を正面から取り除く技術的アプローチです。

目次

  1. EV化・CAFE規制が要求する軽量化は、従来の最適化アプローチの限界を超えている
  2. なぜ「あと数%」が削れないのか。逐次最適化が作り出す構造的な天井
  3. 1ショット最適化はなぜ同時に複数条件を解けるのか。そのメカニズム
  4. JLR事例とディファレンシャルギアボックス事例が証明したこと
  5. 「最適化済み」の設計を疑うべき3つのサイン
  6. GRM視点のまとめ

EV化・CAFE規制が要求する軽量化は、従来の最適化アプローチの限界を超えている

EV(電気自動車)の普及に伴い、バッテリーパックの重量が車両全体の設計制約を根本から変えています。バッテリー重量を所与の条件として受け入れながら、ボディ・シャーシ・サスペンション部品のすべてに軽量化を求めることは、10年前の設計環境では想定されていなかった水準の要求です。

CAFE規制(企業平均燃費基準、Corporate Average Fuel Economy)の段階的強化は、この状況をさらに厳しくしています。規制の目標値を達成するために、設計担当者は製品ごとの軽量化目標を毎年引き上げることを求められています。問題は、設計の前段階で使いやすかった「余白」がすでに使い果たされている点です。かつては形状の見直しだけで達成できた軽量化が、今は材料配置の数学的な最適化なしには届かない水準に移行しています。

こうした社会の変化が、設計担当者を「あと数%」という精密な軽量化に向き合わせています。その課題に答えられる技術として、1ショット最適化の重要性が高まっています。


なぜ「あと数%」が削れないのか。逐次最適化が作り出す構造的な天井

理想は「NVHを維持しながら、静的強度を確保しながら、疲労耐久性を損なわず、質量を最小化すること」です。しかし現実には、複数の性能要件に対してそれぞれ別々に最適化を行い、結果を統合する逐次的なプロセスが取られることが多くあります。

逐次最適化の問題は、個々の荷重条件に最適な材料配置が、別の荷重条件には最適ではないという矛盾を避けられない点にあります。正面衝突に対して最適な材料の流れと、ねじり剛性を確保するための材料の流れは、形状として一致しないことが多い。これを「あとから合成」しようとすると、どちらの条件に対しても中途半端な妥協点に着地します。

さらに深刻なのは、逐次最適化を繰り返すほど「局所最適解」に固定されていく点です。局所最適解とは、特定の条件下では最善であっても、全体の設計空間の中では最善ではない解のことです。「もうこれ以上削れない」という感覚は、本当の意味での最小値に達しているのではなく、最適化の進め方によって局所的な極小点に閉じ込められているサインである場合があります。

GRMの事例では、この逐次的な設計サイクルが1つの部品に対して35回に達することもありました。35回というのは、設計者が35回分の時間と判断を費やしたことを意味します。


1ショット最適化はなぜ同時に複数条件を解けるのか。そのメカニズム

1ショット最適化の本質は、「複数の荷重条件を1回のトポロジー最適化(材料の配置を数学的に導く手法)で同時に処理する」という点にあります。しかし、この「同時に処理する」ことが技術的にどのように可能なのかを理解することが重要です。

問題の核心は、複数の荷重条件を「どう統合するか」です。最もシンプルな方法は、各条件の最適化結果に重み係数をかけて足し合わせる加重平均です。しかしこの方法には根本的な欠陥があります。重み係数の設定に設計者の恣意性が入るため、係数の選択次第で結果が変わります。「条件Aは条件Bより2倍重要」という判断は、直感的ではありますが数学的な根拠を持ちません。

GRMが使用するメインの最適化ソルバーであるGENESIS®は、非常に複雑なアセンブリや部品においても、ワンショット最適化プロセスに極めて適した多くの主要機能を備えています。BIGDOTやSMBDOTといった高度にカスタマイズされたアルゴリズムを採用しており、数百万の設計変数を考慮しながら、多数の設計制約条件や複数の目的関数にも同時に対応できます。また、単一の解析の中でさまざまな最適化手法を組み合わせることも可能です。さらに、自社開発のカスタマイズにより、複雑な最適化のセットアップも実現しています。

この仕組みが「1ショット」という言葉の意味です。エンジニアの試行錯誤の繰り返しではなく、数学的な最短距離で最適解に到達する。それが1ショット最適化の原理です。


JLR事例とディファレンシャルギアボックス事例が証明したこと

GRMの事例として、二つの数字を示します。

一つ目は、Jaguar Land Rover(JLR)のパワートレイン・ドライブライン軽量化プロジェクトです。15荷重条件を1ショットで処理し、32%の質量削減(1.5kg削減)を達成しました。使用技術はGENESIS®による応力制約付きトポロジー最適化です。JLRの担当者は、この手法について次のようにコメントしています。「The ground-breaking part of this methodology, and what it unlocks, is the ability to consider stress constraints on the topology design region.(この手法の革新的な点は、トポロジー最適化の設計領域において応力制約を同時に考慮できる点にある)」。

軽量化しながら応力(材料にかかる内部の力)の制約を同時に満たせることは、解析上の成果であるだけでなく、実製品への適用可能性を直接左右します。机上では軽くなっても、強度の制約を後から確認して修正が必要になれば、設計サイクルは元に戻ります。JLRの担当者が評価したのは、その修正フローをなくしたことでした。

二つ目は、Innovate UK(英国政府)出資によるCFRP製サスペンションアーム(トレーリングアーム)の軽量化プロジェクト「CLASS」です。剛性・強度を含む複数荷重条件を1ショットで処理し、従来のスチール製比で50%の質量削減を達成しています。複合材特有の積層構成と荷重方向の複雑な相互作用を、単一の解析で同時に最適化できる点が、従来手法との本質的な違いです。金属部品とは異なり、複合材は材料の向きそのものが設計変数となるため、荷重条件を逐次処理する方式では最適な積層構成に到達できません。

どちらの事例も、荷重条件を分けて逐次的に処理する方法では到達できない結果です。


「最適化済み」の設計を疑うべき3つのサイン

読んでいて「これは自分のプロジェクトに当てはまる」と感じた方は、次の3点を確認してみてください。

サイン1:荷重条件を「順番に」処理している

現在の最適化プロセスで、複数の荷重条件を1つずつ順番に解析している場合、1ショット最適化による改善余地が残っている可能性があります。荷重条件の数が多いほど、逐次処理と同時処理の結果の差は広がります。特に荷重条件が10ケース以上ある場合は確認の価値があります。

サイン2:重み係数の根拠を問われたら答えられない

多目的最適化の重み係数を「前回と同じ」「等重みで」設定している場合、その根拠は数学的ではなく習慣的なものです。係数の設定が最適化結果を決定的に変える可能性があります。

サイン3:同じ部品の設計サイクルが10回を超えている

解析・修正・再解析のループが10回以上続いている場合、それは最適化を十分に活用できていないプロセスのサインです。GRMのRDM(補強設計手法)を使った事例では、設計サイクルを35回から7回に削減した実績があります。設計者の努力を増やしたのではなく、1ショット最適化を適切に適用したことによる差です。


GRM視点のまとめ

1ショット最適化は「計算を増やす」手法ではありません。「複数の制約を同時に見て、一度で最適解に向かう」という最適化の設計思想そのものを変えるアプローチです。

「あと3%が削れない」という感覚は、設計の詰め方の問題ではなく、最適化の組み立て方に起因していることがあります。JLRの32%削減、ディファレンシャルギアボックスの25%削減、そしてF1チャンピオン獲得に10回以上貢献してきた複合材最適化の実績は、いずれも「1ショットで全条件を処理する」という技術基盤があって初めて成立した数字です。

社内最適化で「これ以上は出ない」という判断が下されている設計に、まだ余地があるかどうか。その問いに、GRMは一次情報として答えられます。


よくある質問

Q. 1ショット最適化は、従来の逐次最適化とどう違うのですか?
A. 従来の逐次最適化では、荷重条件を1つずつ順番に処理するため、先に処理した条件の結果が局所最適解として固定され、後続の条件への対応が制限されます。1ショット最適化は、複数の荷重条件を1回のトポロジー最適化で同時処理することで、全条件を横断した最適解を探索します。GENESIS®の複数目的関数が、この複数制約の同時処理を数学的に実現するコアメカニズムです。

Q. 実際にどの程度の軽量化が達成できるのですか?
A. GRMの支援事例では、ジャガー・ランドローバー(JLR)の部品で15荷重条件を一括処理した結果、32%の質量削減(1.5kg削減)を達成しています。ディファレンシャルギアボックスの事例では34.1kgから25.6kgへ25%の質量削減を、15条件同時処理で実現しました。「あと数%」の壁に直面している設計者でも、複数条件を同時に考慮するアプローチへの切り替えで突破口が開くケースがあります。

Q. 設計サイクルへの影響はありますか?工数が増えるのではないかと心配です。
A. 1ショット最適化は設計サイクルの短縮にも貢献します。GRMの事例では、RDM(補強詳細設計法)の適用で設計サイクルが35回から7回へと大幅に短縮されています。複数条件を個別に試行錯誤する手戻りが減るため、結果として工数は増えるどころか削減される傾向があります。


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