LS-Dyna用CFRP材料カード作成の受託事例

CFRP材料クーポン試験のCAEモデル。MATカード作成受託用モデル

本事例のトピック

  • CFRP(炭素繊維強化プラスチック)のCAE解析精度を左右する材料カード(MATカード)のパラメータ同定および作成受託サービス
  • 引張・圧縮・せん断等の実材料試験データに基づき、LS-DYNAにおける破壊挙動や損傷進展を忠実に再現する高精度な材料モデルを構築
  • 汎用的なMAT54/55(Chang-Chang)やMAT58(積層織物)から、特殊用途のMAT138(Cohesive要素)、MAT169(Arup Adhesive)まで、目的と解析対象に応じた最適なカード選定とパラメータフィッティングに対応

今回の事例では、弊社が得意としている複合材、CFRPについてご紹介します。受託サービスではMATカードの作成を請け負っており、これまでに様々な材料の評価及びMATカード作成をしています。また、トレーニング提供サービスではMATカード作成のためのトレーニングコースも用意しています。

CFRPを用いた設計事例については、CFRP製チェアCFRP製シートフロントウィングの事例をご覧ください。

CFRPのような異方性材料は、NastranやGenesisのような線形静解析ソルバーでは異方性材料カードのMAT8を使用することが一般的です。ただし線形静解析ソルバーでは、非線形領域となる破壊まで確認することができないため、LS-DynaやAbaqusなどの非線形解析ソルバーを使用することになります。

非線形解析ソルバーのMATカードは非常に複雑で、多くのパラメーターが存在しています。また、CFRPなどの異方性積層材に使用できるMATカードの種類も豊富にあり、CAEで評価したい内容に合わせてMATカードの種類を選択することが可能です。

今回は、LS-Dyna用のMAT058 : MAT_LAMINATED_COMPOSITE_FABRICを紹介します。早速MAT058のプロパティを見てみましょう。

LS-Dyna用MATカードのプロパティ。パラメーターが大量にあり、相互作用があるため設定が難しい。
図1:LS-Dyna用MAT58のプロパティ
パラメーターが大量にあり、各パラメーターは相互作用があるため、正しくパラメーター設定するのは困難を極める。

一般的な非線形材料モデルであるMAT024と比較してとてもたくさんのパラメーターが設定可能です。これらのパラメーターを同定することで、精度の良い解析結果を得ることができます。


【MAT58材料カード作成の流れ】

  1. 材料試験の実施
    各方向の引張試験、ILSSなどの基本的な物性値を取得するための試験。
  2. LS-DynaでのMATカードの同定①
    1の試験結果とマッチするようにパラメーターを同定。
  3. 矩形断面やハット断面の梁の3点(4点)曲げ試験
    より製品状態に近い状態を確認。クラッシュボックスでは圧壊試験も実施。
  4. LS-DynaでのMATカードの同定②
    3の試験結果とマッチするようにパラメーターを同定。

今回の事例は、上記の『2.LS-DynaでのMATカードの同定①』が対象です。

CFRP材料クーポン試験のCAEモデル。各試験に合わせて、同じ条件のCAEモデルを作成する。
図2:CFRP材料クーポン試験のCAEモデル
各試験に合わせて、同じ条件のCAEモデルを作成する。試験規格や試験片サイズによりモデルは都度構築する。より良いデータ取得のため、規格外寸法での試験をすることも・・・。

試験状態と同じ状態にしたCAEモデルが上記です。今回はクロス材を使用するため、0°と90°に大きな差はありませんが、UD材では0°と90°に大きな差が発生します。材料や試験場の都合に合わせて試験規格を変更することになります。
代表的な試験規格は以下です。あくまで代表的なものであり、曲げや圧縮等も実施したり、より良いデータ取得のため規格外の寸法での試験をしたりすることがあります。

物性値取得のためのクーポン試験例

高精度な材料カードを作成するためには、解析対象となるCFRPの実材料を用いた機械的特性評価が不可欠です。以下は、MAT54やMAT58等の構成則パラメータを同定するために一般的に実施されるクーポン試験の代表例です。

  • Tension 0°(繊維方向引張試験):
    [JIS K 7164 / JIS K 7165, ISO 527-5 等]
    主に繊維主軸方向(L方向)の弾性率、引張強度、ポアソン比を取得します。
  • Tension 90°(繊維直交方向引張試験):
    [JIS K 7164 / JIS K 7165, ISO 527-5 等]
    主に樹脂方向(T方向)の弾性率、引張強度を取得し、マトリックス破壊の判定基準とします。
  • Tension 45° / IPS(面内せん断試験):
    [JIS K 7019 / JIS K 7079, ISO 14129 等]
    ±45度積層板の引張試験により、面内せん断弾性率およびせん断強度(In-Plane Shear Strength)を取得します。非線形挙動の同定に重要です。
  • ILSS(層間せん断試験):
    [JIS K 7057 / JIS K 7078, ISO 14130 等]
    ショートビーム法等により層間せん断強度(Interlaminar Shear Strength)を取得し、層間剥離(Delamination)の評価指標とします。

【同定したMAT58カードのCAE解析】

引張試験をLS-Dynaで同定した結果のアニメーション
図3:引張試験をLS-Dynaで同定した結果のアニメーション
積層方向の違いにより発生する破断挙動の違いが確認できる。同定の難しさとは裏腹に全く面白味のないアニメーションである。強いて言えば±45°モデルでネッキングが目視できることか・・・。
引張試験結果とCAE結果の比較。正しくパラメーター設定を同定することで正しい強度になるだけでなく、挙動も正しくなる
図4:引張試験結果とCAE結果の比較
各積層方向引張試験、ILSSすべてにおいて正しい強度/剛性かつ破壊挙動も正しい。UD材料では各積層方向に大きな差があるが、同様に正しく同定することが可能。

試験はN=*と複数回の試験を実施しているのですが、見やすくなるように一つの試験結果だけ載せています。余談ですが、同一材料でも成形条件により強度/剛性にばらつきが発生するためクーポン試験の試験片は支給が前提となっています。

実際のMATカード作成業務では、この後に矩形断面での3点(4点)曲げ試験や圧壊試験などを実施し、正しく同定されているか確認し、微妙な違いをチューニングする作業を行います。

その他の材料試験同定結果。高い精度でMATカードが同定できているため、圧壊試験や曲げ試験でも精度の高いCAE結果が得られている。
図5:その他の材料試験同定結果
高い精度でMATカードが同定できているため、圧壊試験や曲げ試験でも精度の高いCAE結果が得られている。

【MAT58以外のMATカード同定例】

CFRPなどの複合材設計では接着剤を使用することが多く、CFRP積層板のMATカード同定だけでは製品設計には不足します。また、目的に合わせてMATカードを選択する必要があり、MAT58以外の材料モデル作成も常に考慮する必要があります。以下に代表的なMATカードを記載します。またもや余談ですが、Explicitでは使用できるのにImplicitでは使用できないとか、Implicitでは精度不良が発生するなど、MATカードごとに特性が異なるため使用用途に合わせて適切な選択が必要です。

MATカード No.
(LS-DYNA Keyword)
主な対象材料 特徴・適用シーン
MAT54 / MAT55
*MAT_ENHANCED_
COMPOSITE_DAMAGE
UD材(一方向材)
クロス(織物材)
Chang-Changの破壊基準に基づき、層内破壊(繊維破断・マトリックスクラック)を表現します。計算コストと精度のバランスが良く、衝突解析で最も汎用的に使用される標準的な材料モデルです。
MAT58
*MAT_LAMINATED_
COMPOSITE_FABRIC
UD材(一方向材)
クロス(織物材)
連続体損傷力学(CDM)に基づき、織物複合材料特有の非線形挙動や損傷進展をスムーズに表現可能です。MAT54では表現しきれない織物のせん断挙動などを詳細に評価する場合に適しています。
MAT138
*MAT_COHESIVE_
MIXED_MODE
接着層
(Cohesive要素)
Bilinear Traction-Separation則を用いた凝集要素モデルです。CFRP部品間の接着接合や、積層間の層間剥離(Delamination)挙動を混合モード(モードI+II)で評価する際に使用します。
MAT169
*MAT_ARUP_
ADHESIVE
構造用接着剤
(接着接合)
構造用接着剤のために開発されたモデルで、接着層の塑性変形によるエネルギー吸収を考慮できます。シェル要素やソリッド要素を用いて、より実用的なスケールでの接着強度評価を行います。

【同定したMATカードによる製品試験例】

これらの同定を実施した材料カードを使用することで、非常に精度の高い解析結果を得ることができるようになります。

RCSのクラッシュ試験と同定MATカードを使用したCAE結果を重ねた状態。破壊挙動もEA量も一致する非常に高精度な解析結果。
図6:RCSのクラッシュ試験とCAE結果を重ねた状態
高精度なMATカードを使用することで、一回目の製品試験で破壊挙動もEA量も一致する非常に高精度な解析結果を得られる。

弊社では、CFRPをはじめとした複合材製品の開発サポートを請け負っています。

  • 試験片の作成(パートナー企業にて)
  • 材料試験の実施(パートナー企業にて)
  • MATカードの作成
  • MATカード作成方法のCAEトレーニング
  • 製品設計
  • 試作(パートナー企業にて)
  • 製品評価(パートナー企業にて)

GFRP/CFRPなどの複合材製品開発でお困りの際はお気軽にご連絡ください。

その解析課題、GRMが解決します。

本記事でご紹介した「LS-DYNAによる高度な非線形解析」「OptiAssistを用いた積層最適化」を、御社の製品開発に適用しませんか?
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この記事の監修・執筆チーム

GRM Consulting株式会社 解析エンジニアリング部

モータースポーツ最高峰のF1から量産車開発まで、20年以上にわたり構造設計・衝突・振動・流体解析に携わるスペシャリスト集団。 単なるシミュレーション結果の提示に留まらず、本記事のような高精度なシミュレーションを得意とし、製造要件(鋳造・鍛造・押出成形・板金・CFRP)を考慮した「造れる設計」を提案しています。

  • 主要ツール:LS-DYNA, Abaqus, Genesis, Nastran, OptiAssist, Simcenter 3D
  • 専門領域:構造最適化、衝撃エネルギー吸収体最適化、CFRP複合材解析、衝突解析、CFD解析
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