衝突・衝撃解析におけるCAE活用の実践ガイド:実機試験コストの低減と構造最適化アプローチ

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ODB(オフセットデフォーマブルバリア)衝突解析結果


本記事の要点(Executive Summary)

  • 物理試験に依存した「試作と破壊」のサイクルを、LS-DYNA等による高精度なバーチャル評価へ置換し、開発コストとリードタイムの劇的な圧縮を実現します。
  • ハイスピードカメラでも不可視なミリ秒単位の内部応力伝播や座屈メカニズムを可視化し、経験則に頼らない工学的根拠に基づく確実な設計対策を可能にします。
  • 衝突・衝撃等の非線形現象に対し独自の「CAE最適化」を適用することで、性能要件の充足と極限の軽量化という背反する課題を、自動計算により最短期間で導き出します。

物理試験に依存する開発からの脱却と、CAEによるバーチャル評価の重要性

製品開発において、衝突・衝撃要件を満たすことは安全性と信頼性を担保する上で極めて重要です。しかし、従来のような「試作しては壊す」という物理試験に依存したプロセスは、莫大な試作費用と開発期間の長期化という大きな課題を抱えています。特に、開発後期の段階で不具合が発見された場合の手戻りコストは計り知れません。

こうした課題に対する工学的な解決策として、LS-DYNA等を用いた高度な非線形動的解析(CAE)の活用が挙げられます。PC上にバーチャルな試験場を構築することで、開発の初期段階から製品の挙動を予測し、性能の改善を図ることが可能になります。

また、こうしたCAEの恩恵は、乗員保護や歩行者保護といった自動車産業に限ったものではありません。新型モビリティの開発や、ISO/JIS規格等の厳格な衝撃・落下試験が求められる一般産業機器まで、幅広い分野において、バーチャル評価は強力な設計ツールとして定着しつつあります。

【コラム】国内設計現場におけるCAEアウトソーシングの潮流

近年、特に国内の設計現場においてCAE(衝突・衝撃解析)のアウトソーシングが急増している領域があります。それが、試作コストの圧縮が至上命題となる『小型EVの開発』や、極限の軽量化と安全性が求められる『レース車両』、そして手戻りを未然に防ぎたい『量産車開発の初期フェーズ(構想設計段階のボディ骨格など)』です。

これらの領域では、物理試験に依存しない精度の高いバーチャル評価が、開発競争を勝ち抜くためのすでに強力な武器となっています。

製品開発において衝突・衝撃解析(CAE)を活用する3つのメリット

試作回数の削減による開発コストとリードタイムの圧縮

実機テストの回数を最小限に抑え、一発合格(あるいは少ない試行回数での合格)を目指すためのフロントローディング手法として、CAEは絶大な効果を発揮します。設計変更が容易なデジタルデータの段階で様々な衝突シナリオをシミュレーションすることで、高価な試作モデルの製作数を劇的に削減し、開発全体のコストとリードタイムを大幅に圧縮することが可能です。

開発プロセスの総コスト・工数比較(比率)

設計
試作(物理プロトタイプ)
評価(実機テスト)
CAE解析
CAE最適化
現物ベース
(試作依存・手戻りループ)
約 400 オーバー
CAEあり
(通常解析・検証用)
100 (基準)
CAE最適化あり
(GRM推奨・試作レス化)
72

なぜ「CAE最適化」でこれほどコストが下がるのか?

  • 試作評価コストは同一:高精度なCAEを用いていれば、最終的な「答え合わせ」となる実機試作・評価の回数は「通常CAE」でも「最適化」でも最小限(同等)に抑えられます。
  • 設計工数の劇的な削減(最大70%減):最適化アルゴリズムが「正解の形状」を自動で導き出すため、設計者がCADとCAEの間で行う「勘と経験に基づく試行錯誤(パラメータスタディ)」の時間が消滅します。弊社顧客の報告では、この設計工数を約70%削減できたケースも存在します。
  • 現物ベースは論外:CAEを用いずに実機テストで「壊しては直す」を繰り返す手法は、試作費が天文学的に膨れ上がり、開発期間を圧迫します。

ブラックボックス化する「破壊メカニズム」の可視化と工学的理解

実機試験の最大の欠点は、「最終的に壊れた結果」しか観察できない点にあります。ハイスピードカメラを用いても、内部構造で何が起きているかを完全に把握することは困難です。しかし、CAEであれば「どの瞬間に、どの部品に応力が集中し、どのように亀裂や座屈が進行したか」をミリ秒単位の内部応力分布として可視化できます。これにより、経験則ではなく工学的な根拠に基づいた確実な設計対策(フィードバック)を打つことができます。

クラッシュボックスの圧壊シミュレーション結果
図1:クラッシュボックスの圧壊シミュレーション結果
先端から徐々に座屈していく様子を確認できる。座屈きっかけとなるビードの設定や、肉厚分布による応力伝播の様子を視覚的に確認することができる。

各種安全基準(ISO/JIS規格・ホモロゲーション等)の事前検証

衝突・衝撃解析は、規格で定められた要件に対する事前検証として極めて有効です。例えば、モータースポーツにおけるFIAのホモロゲーション(シートベルトアンカーの強度要件やロールケージの評価など)や、一般工業製品におけるISO/JIS規格の落下・衝撃試験など、合否基準が明確な要件に対して、実機試験前にデジタル上でパスできるかを確認することで、試験本番での予期せぬ失敗を回避します。

【コラム】開発初期フェーズにおけるフロントローディングの威力

実機試験の回数を減らすフロントローディング手法は、開発資金やリソースが限られるプロジェクトほど絶大な効果を発揮します。当社が国内で、小型EVメーカー様からの車両丸ごとの評価や、大手メーカー様の『まだ図面が固まりきっていない開発初期のボディ評価』を数多く受託している理由もここにあります。

形状変更が容易な初期段階でCAEを回し、構造の方向性を決定づけることで、後工程での致命的な「手戻り地獄」を確実に回避できるのです。

GRM Consultingの衝突解析受託サービス:単なる「計算代行」ではない設計提案

欧州OEMやモータースポーツ最前線で培われたアセスメント技術

GRM Consultingは、衝突安全基準が極めて厳しい欧州の自動車メーカーから、長年にわたりアセスメント評価を受託してきた実績を持ちます。そこで培われた世界基準のモデリング技術と評価ノウハウにより、クラッシュボックスやシートといった部品レベルの解析から、車両全体のフルラップ衝突安全評価まで、お客様のニーズに合わせて柔軟かつ高精度に対応します。

【コラム】自動車の衝突安全を分かつ「法規対応」と「NCAP」の壁

自動車の衝突安全性能を語る上で絶対に避けて通れないのが、「法規対応(必須)」「NCAP(評価アセスメント)」という2つの巨大な壁です。衝突CAEの目的は、これら膨大かつ複雑な試験パターンをバーチャルでクリアし、開発の手戻りを防ぐことにあります。

1. 法規対応(UN法規 / 旧ECE法規):販売するための「絶対的な最低ライン」

クルマを公道で走らせ、販売するために必ずクリアしなければならない基準です。国際的な基準であるUN法規が代表的で、例えば前面オフセット衝突(UN-R94)側面衝突(UN-R95)などが定められています。これに合格しない限り、自動車としてのビジネスはスタートすらできません。

2. NCAP(新車アセスメントプログラム):市場価値を決める「星取り合戦」

法規をクリアした車に対し、さらに厳しい条件で衝突試験を行い、その安全性を星の数(ファイブスター等)で消費者に示すのがNCAP(エヌキャップ)です。日本なら「JNCAP」、欧州なら「Euro NCAP」と呼ばれます。法規よりも衝突速度が高かったり、厳しい角度での衝突が求められたりと、メーカーの真の技術力が試される過酷な試験です。

これらすべてのパターンを「実機試験(試作車の破壊)」だけで網羅しようとすれば、開発リソースと資金は一瞬で吹き飛びます。だからこそ、LS-DYNA等を用いた高精度なバーチャル評価(CAE)で事前にすべての合否を検証することが、現代の開発現場において必須の戦術となっているのです。

【独自技術】動的・非線形現象(衝突)への「CAE最適化」の適用

当社の最大の特徴の一つが、一般的な静的解析だけでなく「衝突条件を含んだ最適化計算」を提供できる点です。通常、衝突のような動的かつ非線形な現象に対して最適化アルゴリズムを適用することは技術的に非常に困難です。しかしGRMでは、独自のノウハウとツール群を駆使することで、指定された衝突要件(衝撃吸収エネルギー量/侵入量/最大荷重など)を満たしながら、部材の極限の軽量化を図るという、背反する事象を高い次元で両立する設計提案が可能です。

ポール側突のEA量や侵入量をCAE最適化により性能向上した事例
図2:ポール側突のEA量や侵入量をCAE最適化により性能向上した事例
衝突のような動的課題をCAE最適化により、軽量化・短期間開発することに成功している。

異方性材料(CFRP等)の複雑な破壊シミュレーション

次世代の軽量化素材として注目されるCFRP(炭素繊維強化プラスチック)などの複合材料は、金属のような塑性変形(粘り)を持たず、脆性破壊や層間剥離を伴うため、衝突解析の難易度が飛躍的に高まります。GRMは、モータースポーツ等で培った複合材特有の異方性を考慮したモデリング技術を有しており、金属材料だけでなく、複合材(CFRP)を用いた衝撃吸収構造(クラッシュストラクチャ)の開発においても豊富な実績を誇ります。

【コラム】世界基準の解析ノウハウを、国内のアジャイル開発へ

GRMは、欧州の自動車メーカーから厳格な衝突アセスメント評価を長年受託しており、世界基準のモデリング技術を有しています。一方で、国内市場においては、その高度な解析ノウハウをスピードが命のアジャイルな開発現場へ提供しています。

具体的には、小型モビリティのフルラップ衝突安全評価から、レース車両特有のクラッシュストラクチャ(衝撃吸収構造)の開発、さらには量産車における『開発初期フェーズ』のボディ骨格の方向性出しまで、お客様のフェーズと限られたリソースに合わせた、最も効果的で柔軟な解析受託を行っています。

フォーミュラEのクラッシュストラクチャ解析結果と実機評価の比較
図3:フォーミュラカーのCFRP製クラッシュストラクチャ解析結果と実機評価の比較
設計完了後のCAE結果と、初回試作品による試験結果の比較。
高精度なCAEにより、一回の試験ですべての性能要求が満足できていることが確認されている。

衝突解析・構造最適化の実績と解析事例

GRM Consultingが手掛けてきた、衝突・衝撃解析および構造最適化の実績は多岐にわたります。理論やソフトウェアの販売だけでなく、自らが解析エンジニアとして最前線で課題を解決してきた「実証された知見」がここにあります。

小型モビリティのフルラップ衝突、クラッシュボックスの最適化、FIAホモロゲーション要件を満たすシートベルトアンカーの評価、さらには外装部品への飛び石解析など、幅広い事例が存在します。以下のセクションから、各事例の具体的なアプローチと結果をご覧ください。

Simulation & Optimisation Case Studies
衝突解析・構造最適化の実績

クラッシュボックス最適化事例

Crash / Optimisation

クラッシュボックスの最適化

衝撃吸収エネルギーを最大化しつつ、重量を最小化する。動的・非線形現象に対する高度な最適化アルゴリズムの適用事例。

傷害値CAE評価事例

Safety / Assessment

傷害値(HIC)CAE評価

歩行者保護性能を評価するHIC(頭部傷害基準)解析。法規対応やアセスメントに向けた、実機試験前の確実なバーチャル検証。

CFRPの非線形解析事例

Composites / Non-linear

CFRP製レース用シートの設計

FIA8855-2021適合シートの設計事例。EA量が規定されるため、CFRPの異方性を考慮した非線形領域まで踏み込んだ積層設計。

シートベルトアンカー解析事例

Homologation / Safety

シートベルトアンカー解析

モータースポーツの安全を担保するFIAホモロゲーション取得に向けた強度検証。乗員保護のための確実なバーチャル評価。

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その解析課題、GRMが解決します。

本記事でご紹介した「LS-DYNAによる高度な非線形解析」「非線形/動的課題のCAE最適化」を、御社の製品開発に適用しませんか?
「現状のモデルを見てほしい」「テスト解析を依頼したい」など、技術的なご相談からでも大歓迎です。

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  ※技術のご相談は各事例モデルの解析担当者に対応させます。

この記事の監修・執筆チーム

GRM Consulting株式会社 解析エンジニアリング部

モータースポーツ最高峰のF1から量産車開発まで、20年以上にわたり構造設計・衝突・振動・流体解析に携わるスペシャリスト集団。 単なるシミュレーション結果の提示に留まらず、本記事のようなCAE最適化設計を活かした設計を得意とし、製造要件(鋳造・鍛造・押出成形・板金・CFRP)を考慮した「造れる設計」を提案しています。

  • 主要ツール:LS-DYNA, Abaqus, Genesis, Nastran, OptiAssist, Simcenter 3D
  • 専門領域:構造最適化、衝撃エネルギー吸収体最適化、CFRP複合材解析、衝突解析、CFD解析