CFRP Chair

CFRP椅子レンダリング

今回の事例では、CFRPチェアをコンセプト立案~最適化~設計~製作した、「Slit Chair」の事例をご紹介します。

製作ではサカイ産業株式会社様、コンセプト作成および意匠デザインは未来輪業様にご協力いただきました。

 

ここで紹介するモデルは残念ながら販売はしていませんが、サカイ産業様に頼み込めば(きっと)製作可能です。

 

CFRP製チェア

まずは製品コンセプトとして、「CFRPの特性を活かした形状の椅子」というものがあります。そのため、あえて「力学的に間違えている椅子」という意匠にしました。

側面視で見ると片持ち梁になっていて、座面前端でしか体重を支えられないことがわかります。

狙いの性能は、JIS S 1032 オフィス家具-椅子で定められた性能要件です。実際に使用できるように、JIS S 1032では不足していると考えられる意地悪な条件も少し追加しています。

130kg以上の体重の方が座っても壊れない、実使用に耐えうる性能の椅子を開発します。

CFRP最適化

まずは、ラフなトポメトリー最適化を使用して、積層板厚分布の傾向を調査します。

左側は弊社製のソフトを使用して自動的に任意のパッチサイズに積層を分割したモデルです。このパッチごとに板厚を可変させることができます。傾向調査のためだけなので、分割はラフで十分です。

右側は最適化結果の板厚となり、予想通りの板厚分布を得ることができました。

このラフな板厚分布から、サカイ産業様とプリフォーム形状を相談します。作りやすく、できる限り少ない枚数で積層することを目指します。

CFRPトポメトリー最適化

次に、仮決めしたプリフォーム形状でもう一度積層を最適化します。

積層設計の難しいのは、厚み、材料選定、繊維方向など設計変数が豊富なため手作業や机上計算では過剰設計になりがちなところです。

この最適化フェーズでは、積層厚みだけではなく、Cloth もしくは UD、プライの方向、材料選択をしています。設計変数が多く、最適化設定工数が膨大になりがちですが、弊社製の積層設計専用ソフトOptiAssistにより最適化設定は数分で済みます。

OptiAssistはほとんどのFormula1チームで使用されている、CFRP積層最適化に特化したソフトです。

板厚分布をみてみると、体重を支えるために座面前側の積層が厚くなっていることがわかります。肘置き部分も左右剛性のため比較的厚めです。

脚となる部分は、座屈に耐えるために厚い積層となります。積層最適化の荷重条件に座屈係数制約が入っているため、現実的な積層設計になっていることが理解できます。

積層最適化

いよいよ積層設計も大詰めです。

サカイ産業様と詳細なプリフォーム形状を決めつつ、ドレーピング性も確認していただきました。ドレーピング性については事前にOptiAssistのドレーピング解析機能を使用して目途付けをした上で相談することができます。

積層のスタッガー(積層が階段状になる部分)もOptiAssistで作成します。すべてのプライ形状をこの最適化で確定し、製造するための積層を完成させます。同時に、微妙な角度の繊維配向となるプライを廃止し、製造性を高めます。

CFRPのCAE最適化

一般面に穴を開けることができるのはわかっていたため、穴あきバージョンを製作することになりました。最適化により穴あけ可能な部分を明示し、意匠性を高める穴を追加しました。実際にはさらに大きな穴を開けることができ、ほとんど骨だけになった実製品はサカイ産業様で見ることができます。

プライブック自動生成

こちらは製造に使用されたプライブックの一部です。OptiAssistで作成した積層情報を元にCAEモデルからダイレクトにPowerPoint形式で出力できます。ほとんど自動で出力され、注釈等はOptiAssist上で追記することができます。具体的なプライを貼り付ける位置はもちろん、3Dデータで各プライ形状を出力することができるため、複雑な形状でも3Dモデルを見ながら積層することができます。

プライのフラットパターンもDXFで出力できるため、フラットパターンデータから直接カッティングプロッターでカットすることが可能です。初めの意匠面(ツール面)3Dデータから一度もCADに戻ることなく試作まで進むことができました。

最終的に2.5kg程度と小指で持ち上げられる軽さの椅子が完成しています。

なお、他の材料で製作した場合の質量は以下です。

  • PP-GF10:12kg程度(肉厚一定の場合)
  • 鋼(ハイテン):37kg(板厚一定の場合)
  • アルミ(A7000系):14kg(肉厚一定の場合)
  • 一般的な3KクロスCFRP:7.2kg(積層厚み一定の場合)

リブ等がないシェル構造とした場合、最適化されたCFRPの圧倒的な軽さが際立つ結果となりました。もちろんこれは高い技術力を持つサカイ産業様のご協力があったからに他なりません。

ここでご紹介しているSlit Chairの現物は弊社オフィスおよびサカイ産業様で展示されています。実際に座ることもできるので、ぜひ体感してみてください。