【解析事例】「音」を設計する — 熟成メイプル×トポロジー最適化で挑む、次世代ギター

Home » Case Studies » 【解析事例】「音」を設計する — 熟成メイプル×トポロジー最適化で挑む、次世代ギター
トポロジー最適化を使用して開発されたギターの製品写真
トポロジー最適化により設計された究極のギター【Mana】
レンダリング画像ではなく、銘木から削り出された製品写真。

「熟成された銘木の響き」を、最新の数学でコントロールする。それは、伝統的な楽器製作とデジタル・エンジニアリングの融合です。

GRM Consultingが挑んだのは、長年シーズニング(乾燥・熟成)された最高級ハードメイプル材のポテンシャルを、「トポロジー最適化」によって極限まで引き出す、次世代のエレキギター開発です。

本事例のトピック:銘木 × 構造最適化

  • 自動車開発の「騒音低減(NVH)」技術を逆転の発想で応用。ボディの不要な共振を排除し、豊かな音色を生む振動モードのみを残す振動応答解析を実施。
  • 構造最適化ソフト「Genesis」を用い、狙った音域の振動効率が最大になるようトポロジー最適化を実行。経験や勘に頼らず、工学的な根拠に基づいて「鳴り」を設計。
  • 素材にはギター材として最高峰の「熟成ハードメイプル(Hard Maple)」を使用。最適化計算が導き出した有機的な「肉抜き形状」を、精密な切削加工で無垢材から削り出した、アナログとデジタルのハイブリッドモデル

今回の事例では振動、主に音に関するものをCAEによる最適化設計した受託事例として、ギターをトポロジー最適化&製作した事例をご紹介します。製品画像は、レンダリングではなく実際の製品をプロのカメラマンに撮影していただいた画像です。なんと、販売しています。株式会社ユージン様との協業で生まれた、Manaギターです。Instagramでもいろいろな画像を見ることができるのでぜひ覗いてみてください。

\ 「最適化ギター:Mana」 /
実機の試奏や、オーダーメイドのご相談はこちら

試奏・購入についてのご相談

株式会社ユージン様のManaギター紹介ページhttps://ujin-net.com/mana/
Guitar Magazine様での特集記事https://guitarmagazine.jp/news/2023-1012-u-i-d-guitars-mana/

㈱ユージン様では、U-I.Dというオリジナルギターブランドを展開していて、黒夢の鈴木新さんや、JUDY AND MARYの恩田快人さんが愛用しています。

技術解説:トポロジー最適化で「振動」をデザインするとは?

通常、自動車部品におけるトポロジー最適化は「剛性を保ちつつ軽くする」ために使われます。しかし今回は、「特定の周波数で、意図通りに振動させる」という動的な最適化(Eigenvalue Optimization)を行っています。

逆転の発想:ノイズ対策技術を「音作り」へ

自動車開発では、エンジンの振動などと部品が共振しないよう、固有振動数を「ずらす(共振を避ける)」設計を行います(NVH対策)。
逆に楽器では、弦の振動をボディが増幅するよう、固有振動数を「合わせる(美しく共振させる)」必要があります。
本プロジェクトでは、解析ソフトが「ここを削れば、この音域がもっと響くようになる」という場所を数学的に特定。ハードメイプルという硬い素材の不要な部分だけを削ぎ落とし、狙った音色を奏でるための形状を導き出しました。

つまり、職人が長年の勘で行ってきた「木の鳴りを見極める」作業を、物理シミュレーションによって可視化・定量化したのです。


【次世代ギターの開発】

普段、受託の最適化解析では騒音や共振などによる振動問題を解決するために使用している最適化で、楽器の音にも流用できると考えました。解析モデルでは振動応答の他に、いくつかの荷重条件を与えました。トポロジー最適化を使用して、常用できる強度を持った、軽量かついい音の出るギターを目指します。

ギターのCAE解析モデル。音質に関わる振動特性と、演奏や保管時にかかる荷重を考慮している
図1:エレキギターのCAE解析モデル。
音質に関わる振動特性と、演奏や保管時にかかる荷重を考慮している。このモデルをベースにトポロジー最適化をしていく。

一般に軽量なギターは音質が良くない、と言われがちですが、軽量であっても音質の良いギターを目指しました。弦をはじいた時の振動共振によるピックアップ部分の変位に注目し、できるだけ応答(変位)が小さくなるように努めました。

トポロジー最適化により、周波数応答の波形をコントロールしていきます。

ギターのトポロジー最適化スタディモデル群
図2:エレキギターのトポロジー最適化結果
様々な条件設定でのトポロジー最適化により、最も優れたギターの形状を検証していく。
CAEによるギターの周波数応答解析
図3:エレキギターの周波数応答解析結果
ベンチマーク品とトポロジー最適化品の周波数応答を検証していく。最大ピーク、最小ピーク、応答の分布をコントロールする。

一般に軽量なギターは音質が良くない、と言われがちですが、軽量であっても音質の良いギターを目指しました。また、弦をはじいた時の振動共振によるピックアップ部分の変位に注目し、できるだけ応答(変位)が小さくなるように努めました。

CAEトポロジー最適化ギター形状のレンダリング画像
図4:エレキギターのトポロジー最適化最終案レンダリング画像
いくつものスタディの結果、納得がいく仕上がりになったと考えられるものを選んだ。
CAEによるトポロジー最適化したギターの振動特性
図5:最終案ギター形状の振動特性解析結果
ピックアップの応答(共振変位)に注目したグラフ。ソリッドボディ(黒線)と比較してピーク変形量が抑えられ、どの弦でも差が小さくなるように配慮されている。

図5のグラフはピックアップ2か所の振動応答を示しています。

黒線はソリッドボディのギターで、赤が最適化後のギターです。ピークの応答を低減し、できるだけフラットな特性に仕上がりました。つまり、弦(周波数)によるボディ共振の差が小さくなるように努めています。

技術解説:なぜ「軽いギターは音が悪い」と言われるのか?

楽器業界には「重い木材ほどサスティーン(音の伸び)が良い」という定説があります。これには物理的な理由があり、無闇に軽量化すると「ペラペラな音」になりがちです。

物理の壁:弦振動のエネルギー損失

弦が振動するとき、そのエネルギーはボディ(土台)に伝わります。もしボディが軽く、剛性が低いと、弦のパワーに負けてボディ全体が過剰に揺れてしまいます。
これは「弦のエネルギーが、ボディを揺らすために消費されてしまう(=音がすぐに消える)」ことを意味します。これが、軽いギターがサスティーンに乏しく、音が軽いと言われる主な原因です。

GRMのアプローチ:軽さと「音響剛性」の両立

本プロジェクトの凄みは、単に軽くしたのではなく、「弦のエネルギーをしっかり受け止めるための剛性(背骨)」をトポロジー最適化で特定し、そこだけを残した点にあります。
必要な質量と剛性をピンポイントで配置することで、「軽いのに、まるで重いギターのように芯のある音」を実現。口述の試験をしていただいた河合楽器様のプロフェッショナル達が驚愕した理由は、この物理的な矛盾の解決にあるのです。

ギターのCAEによる音響解析モデル
図6:CAEによるギターの音響解析モデル
製品試験に合わせて計算した音響解析モデル。発生する音圧(dB)や周波数(Hz)を確認し、ギターの特性を予測する。

【トポロジー最適化されたギターの製作】

音響解析も実施し、ある程度自信が持てたことで製作に入ります。楽器の音は様々な要素が関わっているため非常に複雑であり、作ってみないとわからないというのが本音でした。

㈱ユージン様では、ギター製作のためにストックしている数十年寝かせた良質なハードメープル材が待っています。言うまでもなく驚くほど高価な材料です・・・。下の画像は、初試作に使用された実際の材料です。

ギター用のハードメープル木材。柄はフレイムメイプル(虎杢)
図7:ギター用のハードメープル木材
柄はフレイムメイプル(虎杢)。長年寝かせた良質な材料。製作にあたり、杢目の柄を選ばせていただきました。
CAE最適化ギターを木材からNC加工したところ
図8:CAE最適化ギターを木材からNC加工したところ
NC加工により削り出されたギターの仮組状態。この時点でものすごいオーラを放っている・・・。
トポロジー最適化エレキギター Mana(マナ)製品写真:熟成ハードメイプル削り出し
図9:トポロジー最適化エレキギター【Mana】の完成写真
ギター職人により製作されたトポロジー最適化エレキギター【Mana】。

㈱ユージン様では様々な材料をストックしていて、最適化ギターに合うような杢目から候補を選んでいただきました。この木材からNC加工でギターを製作していきます。金属や樹脂よりも反りが強く出るなど、木材ならではの難しさがあるようで、加工は難しいそうです。


【株式会社河合楽器製作所様による音響評価】

関係者全員、出来上がってみるまで不安だったと思います。出来上がったギターを実際に演奏したギタリストたちの感想は、「レスポンスがいい」「音がきれい」「軽いので疲れない」など、ネガティブな印象は無くポジティブな感想ばかりでした。

ただ、どうしても主観的な感想になってしまうため、なんと株式会社河合楽器製作所様で音響評価を受けることになりました。音響評価を実施することで、トポロジー最適化ギターの特性を明らかにします。

㈱河合楽器製作所様からは以下のように評価を受けました。評価は、同時に評価を受けた他の3種類のギターとの相対比較です。(安物ではありませんよ)

株式会社河合楽器製作所様による評価コメント

試作モデルを実際にプロフェッショナルの方々に試奏・計測していただいた結果、以下の特性が確認されました。

パワフルな鳴り(音響エネルギー)
オーバーオールレベル(バンドレベルのエネルギー和)の最大値が大きく、入力に対してボディ全体が力強く駆動していることが確認されました。
安定した振動バランス
低音域から高音域までボディの鳴りが良く、特定の帯域で音が詰まることなく振動が安定しています。
煌びやかな音色キャラクター
高次倍音(Harmonics)が良く出る特性を持っており、聴感上、豊かで煌びやかなトーンが得られています。
官能評価による「立ち上がりの速さ」
音の立ち上がり速度自体はデータ上で明確な差が見られませんでしたが、ボディの豊かな鳴り感と倍音構成により、体感的に「レスポンスが速い」と感じられるという興味深い結果が得られました。
トポロジー最適化したギターを河合楽器製作所様で音響評価していただいた際のデータ抜粋
図10:ギターの音響評価結果
河合楽器製作所様で音響評価していただいた際のデータ抜粋。
ライバル品ギターは3~4弦に最大音量(dBA)ピークがあり、1弦6弦は小さい。【Mana】はどの弦でも安定して高出力である。

サウンドメッセに出展したため、Youtube・Instagram・Xなど各種SNSで見ることができ、ギターマガジン2025年6月号にも掲載されています。ぜひご覧ください。

今回は、最適化による振動特性制御を最大限に利用した楽器「Manaギター」の事例を紹介しました。弊社ではまだ誰も取り組んだことのない領域での研究開発、それに付随する試作から評価まで一貫して受託することができます。受託開発だけでなく、研究パートナーとしてもぜひご検討ください。

← 事例集一覧へ戻る ← 戻る

その解析課題、GRMが解決します。

本記事でご紹介した「振動に関わる最適化技術」「音に関わるCAE解析」を、御社の製品開発に適用しませんか?
「現状のモデルを見てほしい」「テスト解析を依頼したい」など、技術的なご相談からでも大歓迎です。

詳細資料を請求 / 解析・設計の相談をする(無料)

※「記事を見た」と書いていただけるとスムーズです。
  ※技術のご相談は各事例モデルの解析担当者に対応させます。

この記事の監修・執筆チーム

GRM Consulting株式会社 解析エンジニアリング部

モータースポーツ最高峰のF1から量産車開発まで、20年以上にわたり構造設計・衝突・振動・流体解析に携わるスペシャリスト集団。 単なるシミュレーション結果の提示に留まらず、本記事のような振動応答を制御する技術を得意とし、騒音低減や音質改善を手掛けています。

  • 主要ツール:LS-DYNA, Abaqus, Genesis, Nastran, OptiAssist, Simcenter 3D
  • 専門領域:構造最適化、衝撃エネルギー吸収体最適化、CFRP複合材解析、衝突解析、CFD解析