オープンカーの空力/CFD解析 - ウィンドディフレクターの効果検証

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オープンカーの空力をCFDにより検証した結果。ヘッダーレールを通った風が室内へ巻き込まれる。

本事例のトピック

  • コンバーチブルカー(オープンカー)の快適性を大きく損なう要因である「車室内への風の巻き込み(Turbulence / Backflow)」のメカニズムを、LS-DYNA ICFD(非圧縮性流体解析)を用いて詳細に可視化・検証
  • ウィンドディフレクター(エアロボード)の有無および高さ違いによる気流の変化を非定常解析でシミュレーションし、後方からの不快な逆流を抑制するための最適なディフレクター形状・配置を導出
  • 解析結果(Q値や流線表示)と実車走行時の体感(足元の寒さや風のバタつき)が見事に整合しており、官能評価(ドライバビリティ)とCAEの相関性を実証した実践的な事例

今回は流体解析(CFD解析)の受託事例として、オープンカーの幌を開けた状態での流体解析(以下CFD解析と呼びます)により、オープンカーのエアロダイナミクスを検証します。季節柄、オープンが気持ちよい時もあればつらい時もありますね。

エアロダイナミクスと大げさに言いますが、実施するのはシンプルな内容です。(エアロダイナミクス=空気力学は一般に空力とも呼ばれますね)

NA6Cのロードスター(ぽい)ボディを使用して、CFD解析によりウィンドディフレクター(ウィンドブロッカーやエアロボードと呼ばれるもの)の効果を検証します。

※ウィンドディフレクター(エアロボード)についてはこちら(マツダ公式ウェブサイト)

技術解説:ウィンドディフレクター(エアロボード)の役割

ウィンドディフレクター(別名:エアロボード、ドラフトストップ)とは、座席後方に設置される衝立状の空力パーツです。 「なぜ後ろに壁を作るのか?」と疑問に思われるかもしれませんが、これはコンバーチブルカー特有の「巻き込み風(Backdraft)」を防ぐために不可欠な機構です。

風のメカニズム:

走行中、フロントウィンドウを越えた空気の流れは、車体後方で剥離し、負圧となった車室内へ向かって「後ろから前へ」逆流しようとします。
この逆流が首元を冷やしたり、髪を乱したりする不快な乱流の原因となります。

ウィンドディフレクターは、この逆流する風をブロックすると同時に、キャビン上部の空気の流れ(境界層)を上方に持ち上げる整流効果を持ちます。
ただし、単に高くすれば良いわけではなく、高すぎると後方視界の悪化や新たな風切り音(空力騒音)の原因となるため、本事例のようなCFD解析による最適化が重要となります。

ウィンドディフレクターの効果は、室内側に巻き込んでくる風を防ぎ、オープン状態での走行を快適にすると言われています。これを、CFD解析を使用して風の流れを可視化することで効果検証してみましょう。

ロードスターのボディ3Dデータは、ゲーム用などに無料配布されている3Dデータを利用しました。粗めのポリゴンデータだったため、少しガタガタですがご容赦ください。また、北米Miataのデータなので内装が若干違います。

なぜNAロードスターを選んだかというと、私が乗っているからです。とても寒くなってきた(記事作成時点:2025年冬)ので、ウィンドディフレクターの効果検証として、このデモモデルが生まれました。99%は個人的な事情ですがお付き合いください。

さて、用意したメッシュデータは以下です。

NAロードスターの流体解析用メッシュモデル
図1:NAロードスター?の流体解析用メッシュモデル
ポリゴンデータから作り出したCFD解析用メッシュモデル。身長175cmのダミー搭載。室内は形状が複雑なため、緻密なメッシュ作成作業を要する。

解析条件およびモデル設定

車両モデル設定 (Vehicle Configuration)
ルーフ状態 オープン(幌なし)
サイドウィンドウ 全閉
アンダーボディ フルフラット(完全スムージング)
乗員モデル 運転席のみ着座
(AM50相当ダミー / 身長約175cm)
ウィンドディフレクター 高さ3パターンで比較検証
CFD計算設定 (Computational Settings)
使用ソルバー LS-DYNA ICFD (非圧縮性流体ソルバー)
解析タイプ 非定常解析(Transient) / 計算時間 ~2.0sec
乱流モデル VMS-LES
(Variational Multi-Scale Large Eddy Simulation)
入口流速 (Inlet Velocity) 50 km/h (市街地走行相当)
計算領域 (Tunnel) DrivAerモデル準拠
その他設定 タイヤ回転なし / 空気物性は標準値を使用

今回は、以下の3種類について検証します。

  1. a.ウィンドディフレクターなし
  2. b.ウィンドディフレクターあり(高さ:クロスバーから100mm)
  3. c.ウィンドディフレクターあり(高さ:クロスバーから200mm)

この3種類を使用して、室内のエアフローを確認してみましょう。

以下の結果表示は、流れが落ち着いた1秒以降のデータのみを表示します。30年前の車両とはいえ、実車に非常に近い形状での解析となるため具体的な数値を載せないことをご了承ください。

余談ですが、Cd値は0.41でした。インターネット上で調べたNAロードスターのオープン状態Cd値は0.44(真偽不明)とあったので、CFDモデルがフラットボトムであることを考えるとインターネット情報は正しそうな気がします。

さて、まずはウィンドディフレクターのない状態から確認してみましょう。

ウィンドデフレクター無しでのオープンカーの車両センター圧力マップアニメーション
図2:ウィンドデフレクター無しでのオープンカーの車両センター圧力マップ
ウィンドシールド後端で発生した剥離による乱流により、キャビン後部から室内へ巻き込んでいく様子が見られる。キャビン内の圧力変動がとても大きい。
NAロードスターのドライバー席の圧力マップ
図3:ウィンドデフレクター無しでのオープンカーのドライバー席圧力マップ
ウィンドシールド後端で発生した剥離による乱流により、頭頂部および背中に激しい圧力変動が見られる。髪の毛がメドューサのように踊りだすのでは。
NAロードスターがオープン状態での車両センターの流速マップ。乱流がたくさん確認できる。
図4:ウィンドデフレクター無しでのオープンカーの車両センター流速マップ
キャビン内にランダムな流速分布が見られる。流速差が激しく、乱流の激しさが可視化されている。
NAロードスターがオープン状態での運転席の流速マップ
図5:ウィンドデフレクター無しでのオープンカーのドライバー席流速マップ
頭頂部、背中の激しい流速差が顕著だが、胸元や手元にも看過できない流れがみられる。足元は流速が安定して低いが、かき混ぜられるように動いている。足がスースーする原因。

上記アニメーションがオープンカーのウィンドディフレクターが無い状態のCFD解析結果です。圧力分布と流速分布を確認すると、ヘッダーレールで剥離した流れが乱流となり、ドライバーの背中側から室内(?)に巻き返すように流れ込んでいることが確認できます。

また、ドライバー足元にまで影響があり、室内の空気全体が掻き混ぜられるような状態になっています。実際にオープン状態で走行していると、足元まで複雑な流れのそよ風が体感できるため、実際に起こっている体感とCFD結果との整合がとれていることがわかりました。

では、どのような流れになっているかを確認してみましょう。

NAロードスターの幌オープン状態の流速線表示(Streamlines:色は流速)
図6:ウィンドデフレクター無しでの流速線(Streamlines)表示
コンターは流速を示す。ウィンドシールド後端からの動きがランダムになっており、キャビン内は強い乱流が発生している。
車両センター断面での流速線表示
図7:ウィンドデフレクター無しでの車両センター流速線(Streamlines)表示
 コンターは流速を示す。キャビンは乱流により複雑な流れである。流速線表示では複雑すぎてどのように空気が動いているかよくわからない。

ここでも、ヘッダーレールより後ろの流れが非常に複雑になっていることがわかります。

Pathlines表示で、車両センターに注目してウィンドシールドを流れてきた風が実際にどのように移動しているか確認してみましょう。Pathlines表示では、実際の空気の流れを粒子の動きとして表示できるため、空気の経路を確認することができます。

オープンカーのウィンドシールドセンターから流入してきた空気が乱流により室内に吸い込まれていく様子
図8:ウィンドデフレクター無しでの粒子移動経路(Pathlines)表示
色は流速を表す。乱流に巻き込まれて室内に吸い込まれていく空気の流れが可視化された。

Pathlines表示では、ヘッダーレールから、乱流を受けながらも車両後方へ抜けていく流れと、室内に吸い込まれていく流れが確認できます。

トランク側からも室内に吸い込まれる流れが確認できます。車両センターだけで確認していてもこれだけ複雑な流れになっており、室内(?)空間は乱流で満たされています。

実車でヒーターをつけても、足元はそれなりに温かい(と言っても乱流なので温かい⇔冷たいが繰り返される)のですが、ダッシュパネルからの温風は全く感じることができません。室内に置いてあるものがバタバタと複雑になびくため、体感したことがある方はこのアニメーションで「あぁ、たしかにこんな感じ」と思っていただけるのではないでしょうか。

では、お待ちかねのウィンドディフレクターを使用した結果を見てみましょう。下図のような3水準のウィンドディフレクターを用意しました。

  • a.ウィンドディフレクターなし
  • b.ウィンドディフレクターあり(高さ:クロスバーから100mm)
  • c.ウィンドディフレクターあり(高さ:クロスバーから200mm)
オープンカーの室内巻き込み風を抑えるためのデフレクターCFDモデルの説明
図9:デフレクターCFDモデル(3水準)
デフレクターなし、デフレクター高さ100mm、デフレクター高さ200mmの3種類。

CFD解析によるウィンドディフレクターの効果検証結果はアニメーションだと見づらいため、2sec時点での状態を静止画で比較してみましょう。非定常解析のため、アニメーションを停止するタイミングに依って分布が変化してしまうことに注意してください。

オープンカーのウィンドデフレクター有無による室内圧力分布比較
図10:ウィンドデフレクター有無による室内圧力分布比較(左:車両センター / 右:ドライバーセンター)
デフレクターの高さが高くなるにつれて、キャビン内の圧力分布勾配が小さくなる。デフレクターの効果がよくわかる結果。
オープンカーのウィンドデフレクター有無による室内流速分布比較
図11:ウィンドデフレクター有無による室内流速分布比較(左:車両センター / 右:ドライバーセンター)
デフレクターの高さが高くなるにつれて、キャビン内の流速分布勾配が小さくなる。デフレクターの効果がよくわかる結果。

ウィンドディフレクター有りと無しは明らかに違うことがわかります。ドライバーの首から下の範囲は快適そうに見えます。頭頂部は・・・ヘッダーレールからの乱流がモロに当たるため変化がありませんでした。また、前述のとおり切り取るタイミングで変化してしまうこともあり100mmと200mmの違いがよくわかりませんね。車両センターの圧力と流速をアニメーションで確認してみましょう。

オープンカーのウィンドデフレクター高さ違いによる室内圧力と流速分布の比較
図12:ウィンドデフレクター有無による室内比較(左:流速 / 右:圧力)
車両センターで流速と圧力の分布を時系列で比較。ウィンドディフレクター高さが高くなるほどキャビン内の空気は安定した流れになっている。

アニメーション表示で見ると、ウィンドディフレクター高さ100mmよりも200mmの方が効果が大きそうですが、違いは小さいです。実際に近代的なオープンカーに純正装備されるウィンドデフレクターも高さが低いことから、ある程度の高さがあれば充分である可能性があります。

室内回りの流れが最もわかりやすいPathlines表示で、ウィンドディフレクター高さ100mmのモデルを見てみましょう。

オープンカーのウィンドシールドセンターから流入してきた空気が乱流により室内に吸い込まれていく様子
図13:ウィンドデフレクター有りのPathlines表示
色は流速を表す。ウィンドディフレクターが空気をまさに「ブロック」することで、キャビン内への巻き込み風を減少させている様子。

トランク側から吸い込まれる流れが、ウィンドディフレクターに阻まれていることが確認できました。

結論としては、

  • ウィンドディフレクターにより室内(?)の流れが落ち着いたものになる。
  • ウィンドディフレクターの高さはクロスバーから100mmで十分。
  • ウィンドディフレクターにより首から下は快適になるが、頭頂部はあまり変化がない。

無事、オープンカーにおけるデフレクターの効果が確認できる結果となりました。頭頂部に効果は無さそうですが、顔の横を通る風は減るため、髪の毛がバタつくことは減りそうです。

暖房を使用した場合は、ウィンドディフレクター有りだったら幌オープン状態でも大丈夫じゃないの?という疑問に応えるため、以下も実施しています。


————- おまけ ————-

Q値を使用して作成したISOサーフェスの画像です。カラーコンターは流速を表します。乱流の塊が移動しているような状態ですね。

Q値を使用して作成した乱流の様子がわかるISOサーフェス面
図14:Q値を使用して作成した乱流の様子がわかるISOサーフェス面
色は流速を表す。もこもこした形状は乱流の大きさを表している。室内はこの塊状の渦がギッシリ。

技術解説:CFDで見かける「Q値の等値面」とは?

流体解析の結果図でよく見かける、煙のような、あるいはチューブのような3次元形状(Iso-surface)。これは一般的に「Q値(Q-criterion)」を用いて可視化された「渦構造(Vortex Structure)」です。

なぜ「渦度」ではなく「Q値」なのか?

単純に流体の回転を表す「渦度(Vorticity)」をプロットすると、壁面付近の単なる流れのズレ(せん断流)まで渦として表示されてしまい、空間のどこに乱れがあるのか分かりにくくなります。
そこで、「せん断変形(S)」よりも「回転(Ω)」が支配的な領域を数学的に抽出した指標がQ値です(Q > 0 の領域)。

本事例の画像で表示されている「Q値の等値面(ある一定のQ値を持つ面をつないだ形状)」は、まさに「エネルギーを持った空気の乱れ(渦のコア)」そのものです。
この塊がドライバーの頭部付近に巻き込んでいるかどうかが、不快な風切り音や寒さの直接的な原因となります。


————- おまけ 2————-

自分の車両にウィンドディフレクター相当のものを使用して、気温5℃の中ドライブしました。足元は暑いくらいで、歩く時の服装レベルで十分暖かい状態でした。

その解析課題、GRMが解決します。

本記事でご紹介した「非定常の高精度CFD解析」「FSIを用いた流体構造連成解析」を、御社の製品開発に適用しませんか?
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この記事の監修・執筆チーム

GRM Consulting株式会社 解析エンジニアリング部のロードスター乗り

モータースポーツ最高峰のF1から量産車開発まで、20年以上にわたり構造設計・衝突・振動・流体解析に携わるスペシャリスト集団。
単なるシミュレーション結果の提示に留まらず、本記事のような真因の特定および性能改善を得意とし、性能目標の達成から軽量化まで様々な改善を手掛けています。

  • 主要ツール:LS-DYNA, Abaqus, Genesis, Nastran, OptiAssist, Simcenter 3D
  • 専門領域:構造最適化、衝撃エネルギー吸収体最適化、CFRP複合材解析、衝突解析、CFD解析


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