本記事について
本記事は、GRMユーザーカンファレンス(2018)にて発表された資料に基づくケーススタディの紹介です。より詳しい内容は以下のリンクよりご確認ください。また、Youtube等でも閲覧可能です。
著者:Helena Simmonds, WMG, University of Warwick
出典元プレゼンテーション(外部サイト):Lightweight Composite Design and Manufacture for a Ford Suspension Component (WMG)
本事例の技術的ハイライト
- 目標達成:スチール製サスペンション部品(6.15kg)に対し、プリプレグとSMCのハイブリッド設計により49%の軽量化(3.15kg)を達成。
- 設計最適化:GRM ConsultingのCAE技術を活用し、複雑な荷重条件を満たすトポロジー最適化および積層構成の導出を実施。
- 量産要件のクリア:タクトタイム5分以内、低コスト化という量産(年産25,000台規模)の制約をワンステップ圧縮成形技術で克服。
自動車の軽量化において、サスペンション部品(ばね下重量)の軽量化は車両運動性能やCO2排出量削減に極めて大きな効果をもたらします。しかし、高荷重に耐えうる剛性と強度、そして高量産車における厳しいコストと生産タクトタイムの制約から、複合材(CFRP)の適用は長年の課題とされてきました。
本プロジェクト(CLASS: Co-funded by Innovate UK)は、Ford Motor Company主導のもと、WMG、Gestamp、そしてGRM Consultingが参画し、スチール製の「タイブレード/ナックル(Tieblade / Knuckle)」をCFRP化することで、49%の軽量化(6.15kgから3.15kgへ)と、1台あたり30ドル以内のコスト増に抑えるという非常に野心的な目標を掲げました。
高荷重環境下で使用される複雑な三次元形状部品。
CLASS(The Composite Lightweight Automobile Suspension System)プロジェクトとは
CLASSプロジェクトは、英国のイノベーション推進機関であるInnovate UKの「IDP11:最先端技術の適応(Adapting Cutting edge Technologies)」公募により共同出資を受け、24ヶ月間にわたり実施された研究開発プロジェクトです。
本プロジェクトの主目的は、自動車のリアサスペンション部品である「タイブレード/ナックル」を軽量な複合材料(CFRP)で開発し、高効率な量産プロセスを確立することにあります。車両重量の削減を通じてCO2排出量を低減させるという環境的課題と、高価格になりがちな複合材料をいかにして量産車に適用可能なコストに抑えるかという経済的課題の両面を克服することを目指しました。
■ プロジェクトのパートナーシップ
本プロジェクトはFord Motor Company(フォード・モーター)がリーダーを務め、以下の強力なパートナーシップによって推進されました。
- Ford Motor Company(プロジェクトリーダー / 自動車OEM)
- WMG (University of Warwick)(製造プロセス・材料研究)
- Gestamp (Autotech UK)(サスペンション・シャーシ製造)
- GRM Consulting(CAEおよび構造最適化設計)
この産学連携チームにより、従来のスチール製部品と比較して49%(6.15kgから3.15kg)という大幅な軽量化目標の達成と、高ボリュームの自動車生産に適したサイクルタイム5分以内の製造プロセスの構築が試みられました。
量産要件と材料選定のジレンマ
CFRPを用いた設計における最大の障壁は、力学的な理想と製造の現実のすり合わせです。 初期のコンセプト検討において、複雑な形状に追従し材料歩留まりに優れる「SMC(Sheet Moulding Compound)」単体での設計が模索されました。しかし、サスペンションに求められる高い剛性要件を満たすためには、製造限界を超える板厚が必要となり不採用となりました。
そこで、高い剛性重量比を持つ「連続繊維プリプレグ」と、複雑形状の賦形に適した「SMC」を組み合わせるハイブリッド設計へと移行しました。
GRM Consultingによるトポロジー最適化の適用
最適化フェーズにおいて、GRM Consultingは荷重経路(ロードパス)を可視化し、最適な材料配置を導き出すトポロジー最適化を実施しました。 単純な等方性材料とは異なり、複合材の設計では異方性を考慮したアプローチが必要です。プリプレグ層で長手方向の剛性を担保しつつ、SMCを用いてクレビス(連結部)などの三次元形状を形成するための最適形状が探求されました。
応力集中の回避と軽量化を両立するための材料配置(ロードパス)をCAEにより可視化。製作が難しいため、あくまでコンセプト形状。
トポロジー最適化結果を意識した、SMCとプリプレグによるマルチマテリアル最適化結果。製造要件を満たしつつ、要求性能を満足させるための最適化フェーズ。
異種材料接合の課題(スチールインサートの採用)
ナックル部のクレビス周辺は極めて局所的な高荷重を受けるため、プリプレグとSMCだけでは強度要件を満たすことが困難でした。解決策としてスチールインサートが採用されましたが、ここで新たな「熱膨張係数の違い」という物理的課題が発生します。 成形時の温度変化により、スチールと複合材の界面で層間剥離(デラミネーション)が生じるリスクです。これを回避するため、インサートの熱質量を減らすハニカム形状の採用や、界面の接着性を高める特殊コーティングの適用など、CAEと材料工学の知見を融合させた設計変更が行われました。
線膨張係数の違いによる界面剥離を防止するための挑戦的なアイデア。
量産化に向けた「ワンステッププレス成形」の実現
設計された複雑なハイブリッド構造を、年産25,000台という量産規模(サイクルタイム5分以内)で製造するため、製造プロセスそのものの最適化も行われました。
プリプレグの自動裁断からロボットによるピック&プレースを経て、SMCとプリプレグ、さらにはスチールインサートを一度の工程で成形する「ワンステッププレス成形(Compression Moulding)」が確立されました。150℃、100barの環境下で共硬化(Co-curing)させることで、リブ構造の内部にまで繊維が入り込み、異種材料間の界面強度が向上していることが顕微鏡観察および樹脂のバーンオフ試験により確認されています。
複数材料(SMC,プリプレグ)を同時に成形し、タクトタイム5分以内の厳しい要件をクリア。
まとめ:シミュレーションが切り拓く次世代の量産設計
本プロジェクトは、CAE(最適化技術)と製造技術が高度に連携することで、これまで困難とされてきた「量産車向けサスペンション部品のCFRP化」を実現した革新的な事例です。この成果は国際的にも高く評価され、世界最大級の複合材料展示会であるJEC World 2018にてInnovation Awardsを受賞しています。
【コラム】世界最大級の複合材料の祭典「JEC World」での快挙
JEC(JEC Group)とは、複合材料(コンポジット)産業の発展と振興を牽引する世界最大の組織です。毎年フランス・パリで開催される「JEC World」は、航空宇宙から自動車、エネルギー分野に至るまで、世界中から最先端の複合材料技術が一堂に会する世界最大規模の国際展示会として知られています。
本記事で紹介したサスペンションナックルのプロジェクトは、金属インサート・連続繊維プリプレグ・SMCをワンステップで成形し、量産要件と極限の軽量化を両立させたその革新的なハイブリッド成形アプローチが高く評価され、同展示会における名誉ある「Innovation Awards」を受賞しました。
GRM Consultingは、単に計算結果を出力するだけでなく、本事例のように「製造要件(マニュファクチャリング制約)」を初期段階から最適化プロセスに組み込むことを得意としています。現実的に製造可能でありながら、極限の軽量化を達成する設計プロセスに課題をお持ちのエンジニアの方は、ぜひ当社のCAEソリューションをご検討ください。
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その解析課題、GRMが解決します。
本記事でご紹介した「CFRP製品の設計から製造まで」や「非線形解析を用いた高度なCFRP製品のCAE評価」を、御社の製品開発に適用しませんか?
「現状のモデルを見てほしい」「テスト解析を依頼したい」など、技術的なご相談からでも大歓迎です。
※「記事を見た」と書いていただけるとスムーズです。
※技術のご相談は各事例モデルの解析担当者に対応させます。
この記事の監修・執筆チーム
GRM Consulting株式会社 解析エンジニアリング部
モータースポーツ最高峰のF1から量産車開発まで、20年以上にわたり構造設計・衝突・振動・流体解析に携わるスペシャリスト集団。 単なるシミュレーション結果の提示に留まらず、本記事のようなCAE最適化設計を活かした設計を得意とし、製造要件(鋳造・鍛造・押出成形・板金・CFRP)を考慮した「造れる設計」を提案しています。
- 主要ツール:LS-DYNA, Abaqus, Genesis, Nastran, OptiAssist, Simcenter 3D
- 専門領域:構造最適化、衝撃エネルギー吸収体最適化、CFRP複合材解析、衝突解析、CFD解析
