
今回は流体解析(CFD解析)の受託事例として、オープンカーの幌を開けた状態での流体解析(以下CFD解析と呼びます)により、オープンカーのエアロダイナミクスを検証します。季節柄、オープンが気持ちよい時もあればつらい時もありますね。
エアロダイナミクスと大げさに言いますが、実施するのはシンプルな内容です。(エアロダイナミクス=空気力学は一般に空力とも呼ばれますね)
NA6Cのロードスター(ぽい)ボディを使用して、CFD解析によりウィンドディフレクター(ウィンドブロッカーやエアロボードと呼ばれるもの)の効果を検証します。
※ウィンドディフレクター(エアロボード)についてはこちら(マツダ公式ウェブサイト)
ウィンドディフレクターの効果は、室内側に巻き込んでくる風を防ぎ、オープン状態での走行を快適にすると言われています。これを、CFD解析を使用して風の流れを可視化することで効果検証してみましょう。
ロードスターのボディ3Dデータは、ゲーム用などに無料配布されている3Dデータを利用しました。粗めのポリゴンデータだったため、少しガタガタですがご容赦ください。また、北米Miataのデータなので内装が若干違います。
なぜNAロードスターを選んだかというと、私が乗っているからです。とても寒くなってきた(記事作成時点:2025年冬)ので、ウィンドディフレクターの効果検証として、このデモモデルが生まれました。99%は個人的な事情ですがお付き合いください。
さて、用意したメッシュデータは以下です。

- 車両状態
- 幌:なし
- サイドウィンドウ:全閉
- 車両下側は完全にスムージング
- ドライバー席にはAM50相当(身長約175cm)が着座
- ウィンドディフレクター:高さ3種類
- CFD設定
- ソルバー:LS-Dyna ICFD
- 非定常定速(~2.0sec)
- 入口流速:50km/h
- トンネルサイズ:DrivAerモデルと同じ
- 乱流モデル:VMS-LES
- 流体パラメーター:一般的な値
- タイヤ回転:なし
今回は、以下の3種類について検証します。
a.ウィンドディフレクターなし
b.ウィンドディフレクターあり(高さ:100mm)
c.ウィンドディフレクターあり(高さ:200mm)
この3種類を使用して、室内のエアフローを確認してみましょう。
以下の結果表示は、流れが落ち着いた1秒以降のデータのみを表示します。30年前の車両とはいえ、実車に非常に近い形状での解析となるため具体的な数値を載せないことをご了承ください。
余談ですが、Cd値は0.41でした。インターネット上で調べたNAロードスターのオープン状態Cd値は0.44(真偽不明)とあったので、CFDモデルがフラットボトムであることを考えるとインターネット情報は正しそうな気がします。
さて、まずはウィンドディフレクターのない状態から確認してみましょう。
1.車両センター断面の圧力分布
2.ドライバーセンター断面の圧力分布
3.車両センター断面の流速分布
4.ドライバーセンター断面の流速分布
上記アニメーションがオープンカーのウィンドディフレクターが無い状態のCFD解析結果です。圧力分布と流速分布を確認すると、ヘッダーレールで剥離した流れが乱流となり、ドライバーの背中側から室内(?)に巻き返すように流れ込んでいることが確認できます。
また、ドライバー足元にまで影響があり、室内の空気全体が掻き混ぜられるような状態になっています。実際にオープン状態で走行していると、足元まで複雑な流れのそよ風が体感できるため、実際に起こっている体感とCFD結果との整合がとれていることがわかりました。
では、どのような流れになっているかを確認してみましょう。
5.Streamlines(色は流速を表す)

6.車両センター断面でのStreamlines(色は流速を表す)

ここでも、ヘッダーレールより後ろの流れが非常に複雑になっていることがわかります。
Pathlines表示で、車両センターに注目してウィンドシールドを流れてきた風が実際にどのように移動しているか確認してみましょう。
7.車両センター断面でのPathlines(色は流速を表す)

Pathlines表示では、幌オープン状態の車両において、ウィンドシールドセンターを流れている風がどこに向かうかを確認するために、粒子状にして表示してみました。ヘッダーレールから、乱流を受けながらも車両後方へ抜けていく流れと、室内に吸い込まれていく流れが確認できます。
トランク側からも室内に吸い込まれる流れが確認できます。車両センターだけで確認していてもこれだけ複雑な流れになっており、室内(?)空間は乱流で満たされています。
実車でヒーターをつけても、足元はそれなりに温かい(と言っても乱流なので温かい⇔冷たいが繰り返される)のですが、ダッシュパネルからの温風は全く感じることができません。室内に置いてあるものがバタバタと複雑になびくため、体感したことがある方はこのアニメーションで「あぁ、たしかにこんな感じ」と思っていただけるのではないでしょうか。
では、お待ちかねのウィンドディフレクターを使用した結果を見てみましょう。下図のような3水準のウィンドディフレクターを用意しました。
- a.ウィンドディフレクターなし
- b.ウィンドディフレクターあり(高さ:クロスバーから100mm)
- c.ウィンドディフレクターあり(高さ:クロスバーから200mm)

CFD解析によるウィンドディフレクターの効果検証結果はアニメーションだと見づらいため、2sec時点での状態を静止画で比較してみましょう。非定常解析のため、アニメーションを停止するタイミングに依って分布が変化してしまうことに注意してください。
1.車両センター断面の圧力マップ / 2.ドライバーセンター断面の圧力マップ

3.車両センター断面の流速マップ / 4.ドライバーセンター断面の流速マップ

↑ ウィンドディフレクターの有無による風の流れを比較 ↑
ウィンドディフレクター有りと無しは明らかに違うことがわかります。ドライバーの首から下の範囲は快適そうに見えます。頭頂部は・・・ヘッダーレールからの乱流がモロに当たるため変化がありませんでした。また、前述のとおり切り取るタイミングで変化してしまうこともあり100mmと200mmの違いがよくわかりませんね。車両センターの圧力と流速をアニメーションで確認してみましょう。

アニメーション表示で見ると、ウィンドディフレクター高さ100mmよりも200mmの方が効果が大きそうですが、違いは小さいです。実際に近代的なオープンカーに純正装備されるウィンドデフレクターも高さが低いことから、ある程度の高さがあれば充分である可能性があります。
オープンカーの室内回りの流れが最もわかりやすいPathlines表示で、ウィンドディフレクター高さ100mmのモデルを見てみましょう。

トランク側から吸い込まれる流れが、ウィンドディフレクターに阻まれていることが確認できました。
結論としては、
- ウィンドディフレクターにより室内(?)の流れが落ち着いたものになる。
- ウィンドディフレクターの高さはクロスバーから100mmで十分。
- ウィンドディフレクターにより首から下は快適になるが、頭頂部はあまり変化がない。
無事、オープンカーにおけるデフレクターの効果が確認できる結果となりました。頭頂部に効果は無さそうですが、顔の横を通る風は減るため、髪の毛がバタつくことは減りそうです。
暖房を使用した場合は、ウィンドディフレクター有りだったら幌オープン状態でも大丈夫じゃないの?という疑問に応えるため、そのうち暖房併用状態でのCFD解析を実施予定です。お楽しみに。
————- おまけ ————-
Q値を使用して作成したISOサーフェスの画像です。カラーコンターは流速を表します。乱流の塊が移動しているような状態ですね。

————- おまけ 2————-
自分の車両にウィンドディフレクター相当のものを使用して、気温5℃の中ドライブしました。足元は暑いくらいで、歩く時の服装レベルで十分暖かい状態でした。
その解析課題、GRMが解決します。
本記事でご紹介した「非定常の高精度CFD解析」や「FSIを用いた流体構造連成解析」を、御社の製品開発に適用しませんか?
「現状のモデルを見てほしい」「テスト解析を依頼したい」など、技術的なご相談からでも大歓迎です。
※「記事を見た」と書いていただけるとスムーズです。
※技術のご相談は各事例モデルの解析担当者に対応させます。
この記事の監修・執筆チーム
GRM Consulting株式会社 解析エンジニアリング部のロードスター乗り
モータースポーツ最高峰のF1から量産車開発まで、20年以上にわたり構造設計・衝突・振動・流体解析に携わるスペシャリスト集団。
単なるシミュレーション結果の提示に留まらず、本記事のような真因の特定および性能改善を得意とし、性能目標の達成から軽量化まで様々な改善を手掛けています。
- 主要ツール:LS-DYNA, Abaqus, Genesis, Nastran, OptiAssist, Simcenter 3D
- 専門領域:構造最適化、衝撃エネルギー吸収体最適化、CFRP複合材解析、衝突解析、CFD解析
