
CFD解析受託事例として今回は、オープン状態の暖房性能について熱流体解析で検証します。本記事を書いているのは2026年1月でかなり冷え込んでいますが、オープンカーにとって冬は快適な季節なのかどうか、視覚的に検証してみましょう。
なお、本来ルーフがある部分から内側を、便宜上「室内」と呼びます。
【解析のポイント】
目的: 車速50km/h走行時のオープンカーにおいて、ウィンドディフレクターと暖房設定が車室内熱環境に与える影響をVMS-LESを用いた非定常解析で可視化しました 。
結果: 50℃の温風(40L/sec)を足元重点(配分比約75%)で送風した際の熱流体挙動を特定。外気温10℃下での効率的な快適空間維持のメカニズムを数値的に実証しています 。
技術的意義: 実機試験では困難な非定常な渦構造と温度分布の相関を解明し、オープンカーの冬季走行における空調設計の最適化指針を提示します。また、圧力分布を確認することでサンルーフのウィンドスロッブ音低減検討など、本技術を様々な課題に応用可能です。
さて、前置きが長くなりましたが解析モデルの説明に入ります。
【CFDによる室内エアフロー解析モデルの設定】

↑ CFDにより室内のエアフローを確認するための条件設定 ↑
モデルはウィンドディフレクターの効果検証の、ウィンドディフレクター高さ200mmのモデルを使用します。暖房条件は実車データが見つけられなかったため、最大温度/風量での概算値を入力しました。
解析条件および数値シミュレーション設定
| 項目 | 設定内容 |
|---|---|
| 車両状態 | オープン(幌なし)、サイドウィンドウ全閉、車両下部スムージング処理済 |
| 乗員モデル | ドライバー席:AM50(身長約175cm)相当 |
| 付帯装備 | ウィンドディフレクター(高さ200mm) |
| ソルバー / 乱流モデル | LS-Dyna ICFD / VMS-LES |
| 計算条件 | 非定常定速(~35.0sec)、入口流速:50km/h |
| 環境温度 | 外気温:10℃ |
| 暖房設定 | 設定温度:50℃、総風量:40L/sec(足元:顔:デフ = 98:32:1) |
| 室内測定点 | 測定点:7点(左肩、右肩、顔、胸元、左手、右手、足元) |
- 室内測定点

【解析モデルの妥当性について】
本解析では、計算コストと制度のバランスを考慮しVMS-LESを乱流モデルとして採用しています。先行研究である‘A Large Eddy Simulation of airflow inside a full-scale car cabin’ においては、キャビン内エアフローをLESを用いた高精度シミュレーションにより、車室内の微細な渦構造が乗員の熱的快適性に与える影響が詳述されています。弊社の解析モデルではさらに複雑なオープンカーが題材になっていますが、上記論文で指摘される、ベンチレーション(吹き出し口)の非定常な流れの挙動と同様の傾向が確認されており、本解析モデルの妥当性を裏付ける結果になりました。
【CFD(熱流体解析)による車両室内のエアフロー解析結果】

解析開始から15秒以上経過し、温度が平衡状態に達した後の計算結果です 。LS-Dyna ICFD(VMS-LESモデル)を用い 、50℃の温風を40L/sec (足元・顔・デフ配分比 98:32:1 )で送風した際の挙動を算出しました。ベンチレーションから排出された熱流体は、オープンカー特有の巻き込み気流(乱流)により複雑な渦構造を形成し、温度コンター(線色)の推移から、温風が車室外へ排出される様子が確認できます。
Flowpathでの表示は動きが複雑すぎるため今回は割愛します。
乱流内にあるため全体的に流速変化が激しいことが理解できる。足元の流速は大きく変動しているが温度は安定していることが興味深い。狭い空間へ大開口からの流入があり、近傍に大きな乱流があるためだと考えられる。
Q値は渦の強さを表す指標であり、室内にどの程度乱流が発生しているかを示している。ウィンドディフレクターが無いものは室内に渦がたくさん見られるが、ウィンドディフレクターが有るものは室内に渦はほとんど見られない。(ウィンドディフレクター無しのモデルはエアコン吹き出し無しのため、同一条件ではないことに注意が必要です)
【オープンカー室内エアフロー解析のまとめ】
- 暖かい、むしろ足元は暑いくらいになっている。
- 足元は40℃前後
- 手元は35℃前後
- 胸元は30℃前後
- 顔は30℃前後
- 室内は乱流場であるため、防寒具はあった方がよさそう。
- 現実では複雑な流れ場のため、解析結果よりも低い温度になると考えられる。
今回の解析結果から、定速かつ安定した場ではウィンドディフレクター付きのオープンカーは暖かく、快適なドライブができることがわかりました。ただし、CFDでの計算はウィンドトンネル(風洞)内での計算のため、風が吹いている日や、周辺に車が走っている日は室内乱流が増えるためもっと寒くなると考えられます。
実際のドライブでは、風量ツマミを4段階中2で十分なため、今回の解析結果と実車での感覚が合致する結果となりました。
本事例は車両の空力性能、室内エアフロー、ウィンドスロッブ、ECUやキュービクルの冷却性能など、様々な現象に応用可能です。
本事例の詳細について気になる方や、CFDでお困りの際はお気軽にお問い合わせください。
【余談】
LS-DynaのICFD計算結果で得られる各測定点の出力情報は、データセット(~.pointout.dat)の並びが悪くポスト処理が大変です。私はPythonで一括処理するようにしていますが、どなたかLS-Dynaの出力設定で改善できる方法をご存じでしたら教えてください・・・。
その解析課題、GRMが解決します。
本記事でご紹介した「非定常の高精度CFD解析」や「FSIを用いた流体構造連成解析」を、御社の製品開発に適用しませんか?
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※技術のご相談は各事例モデルの解析担当者に対応させます。
この記事の監修・執筆チーム
GRM Consulting株式会社 解析エンジニアリング部のロードスター乗り
モータースポーツ最高峰のF1から量産車開発まで、20年以上にわたり衝突・振動・流体解析に携わるスペシャリスト集団。
単なるシミュレーション結果の提示に留まらず、本記事のようなCFDを用いた高度なエアフロー解析やFSI(流体構造連成)解析を得意とし、製造要件を考慮した「造れる設計」を提案しています。
- 主要ツール:LS-DYNA, Abaqus, Genesis, Nastran, OptiAssist, Simcenter 3D, OpenFOAM
- 専門領域:構造最適化、衝撃エネルギー吸収体最適化、CFRP複合材解析、衝突解析、CFD(FSI)解析
