ルノーF1チームに学ぶロールフープ設計:極限の軽量化を実現するCAE最適化アプローチ

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About This Case Study

本記事は、GRMユーザーカンファレンス(2016年開催)にて発表された講演資料を基に、極限の軽量化が求められるモータースポーツ現場での「CAE最適化アプローチ」を要約・解説したものです。

  • テーマ: Optimised Roll Hoop Design Methods
  • 発表者: Richard White 氏(Renault Sport F1 Racing)

原文プレゼンテーション資料(外部サイト)を見る

F1(Formula 1)マシンの設計において「軽量化」は絶対的な使命です。部品の質量が減る(特に車両上部の重量が減る)ことは、そのまま低重心化(Low CoG)に直結し、制動時やコーナリング時の圧倒的な安定性とグリップ力をもたらします 。

本プロジェクトのミッションは、「F1マシン用の軽量なロールフープ(Principle Roll Structure)を設計すること」です 。ロールフープは、万が一のマシン横転時にドライバーの生命を守る極めて重要な保安部品です 。

F1マシンのロールフープ位置と役割
図1:ロールフープの役割と位置
ドライバーの頭部後方に位置し、横転時にドライバーを保護する。車両の最も高い位置にあるため、ここの軽量化は低重心化に劇的な効果をもたらす。

しかし、単に軽くすれば良いわけではありません。FIAのレギュレーション(Article 17.2)により、この部品には「後方へ60kN、横方向へ50kN、垂直方向へ90kN」という強烈な荷重(合算で120kN相当)がテストパッドを介して加えられ、変形量を25mm未満に抑えつつ構造破壊を防ぐという、極めて過酷な条件が課されています 。

本記事の重要ポイント(Executive Summary)

  • 過酷な荷重と製造要件の融合: 120kNの複合荷重に耐え、かつ鋳造要件(最小肉厚2.5mm等)を満たすチタン合金製ロールフープの最適化事例。
  • 設計主導の一次最適化: 塑性ひずみを制限できる「TruForm」を用いたトポロジー最適化により、初期設計から最大10%の軽量化を達成。
  • 限界を突破するハイブリッド最適化: 「Genesis」を用いたトポロジー&トポメトリー(板厚)の多段最適化により、既に軽量化された設計からさらに16.5%の質量削減という劇的な成果を獲得。

製造要件と材料特性のジレンマ

設計変数を追い込む前に、エンジニアが直面する現実的な「制約」を整理しましょう。どれほどCAE上で美しい骨格が計算できても、現場で製造できなければそれはただの「絵に描いた餅」です

採用される材料はチタン合金(TA11-Ti 6AL 4V) 。そして製造工法は「鋳造(Casting)」です 。

カテゴリ 主な制約・条件
材料物性
(TA11-Ti 6AL 4V)
ヤング率: 110 GPa / 降伏応力: 825 MPa / 引張強さ(UTS): 895 MPa
製造制約
(鋳造要件)
  • 湯流れを確保するための最小肉厚は約2.5mm
  • 型の見切り線(Line of sight)の確保
  • 深い/止まり穴(Blind pockets)の禁止
  • 熱処理による歪みを避けるため、事後熱処理は不可
幾何学的制約 空力パッケージ(Aero package)に収まること、およびシャシーとの接合面(Bond-Line)を維持すること。

Renault F1 Teamのアプローチ:TruFormによる最適化

ルノーF1チームは最初のアプローチとして「TruForm」を用いたトポロジー最適化を実施しました 。Abaqusソルバーに完全に統合されているTruFormの強みは、最適化中に「塑性ひずみ(Plastic strain)」を制約として組み込める点にあります 。

複合荷重(前方・後方)に対する応力分布と変形を解析し、エンジニアの解釈を交えながら不要な肉を削ぎ落としていきます 。

TruFormによるトポロジー最適化結果
図2:TruFormによるトポロジー最適化結果
荷重経路が可視化され、どこに肉を残すべきかが明確になる。この結果を基にエンジニアが解釈を加え、製造可能な形状へと落とし込む。

【技術解説】限界を突破するAbaqus統合型最適化ツール「TruForm」とは?

本事例の一次最適化でルノーF1チームが使用した「TruForm」。これは、我々GRM Consultingが開発したAbaqus環境に完全統合されるトポロジー最適化プラグインです。

通常のトポロジー最適化との決定的な違い

一般的なトポロジー最適化が「線形弾性」の範囲内でしか計算できないのに対し、TruFormはAbaqusの強力な非線形ソルバーとシームレスに連携します。
これにより、「塑性ひずみ(Plastic strain)」の制限を直接考慮した最適化が可能となり、F1マシンのような過酷な複合荷重下でも「本当に必要な肉」だけを残す、極めて実践的で高精度な軽量化骨格を導き出します。

TruFormの詳細・F1チームでの活用実績を見る(外部サイトへ)

結果として、荷重-変位のグラフ(FEA)において、現行モデルから6%〜最大10%の質量削減の可能性が見出されました 。これだけでも十分な成果と言えますが、F1の世界では「妥協」の二文字はありません。

 

GRMのアプローチ:「限界」の先へ挑む多段最適化

ここで登場するのが、我々GRMの最適化技術です。「すでに十分に軽量化された設計(10%削減版)」から、さらに15%の質量を削り落とすという、常軌を逸した目標(Objective)が設定されました

使用したソルバーは「Genesis」です 。材料の非線形性こそ考慮できないものの、あらゆる最適化手法を同時に走らせ、複数荷重ケースでの効率的なコンタクト解析(非線形接触解析)が可能な圧倒的ポテンシャルを秘めています 。

ステップ1:ソリッド・トポロジー最適化

まずは質量分率を最小化する目的で、応力をUTS(引張強さ)以下、接着応力を許容せん断限界以下に設定して計算 。これにより、明確な「デザインのヒント(骨格)」が抽出されます

ステップ2:シェル&ソリッドのハイブリッド・トポロジー

抽出された骨格の中で「確実に残さなければならない領域(非設計領域)」を定義し、残りの構造に対してシェルとソリッドを組み合わせた高度なトポロジー最適化を実行 。これをベースに、鋳造可能なロールフープ形状をモデリングします

ステップ3:トポメトリー最適化による「板厚」の極限チューニング

最後に、トポメトリー最適化(Topometry Optimisation)を適用します 。剛性を最大化し、ピーク応力を最小化するよう、シェル要素ごとの板厚をミクロ単位で変化させます 。この計算結果を、鋳造で実現可能な滑らかな板厚分布へとマッピングし直すのです

GRMによる最終最適化結果
図3:最終的な非線形検証結果
複数の最適化手法を組み合わせることで、応力集中を完璧にコントロール。初期の軽量化モデルからさらに削り込んだ極限の姿。

結果:現行比「16.5%」の驚異的な軽量化

最終的な非線形検証の結果、目標の15%を上回る「現行比16.5%の質量削減」に見事成功しました 。

トポロジー最適化(骨格抽出)だけで満足せず、トポメトリー(板厚)や形状最適化(Shape Optimisation)など複数の手法を組み合わせ、そこにエンジニアの卓越した「設計解釈(Engineering Interpretation)」を加えること 。それこそが、F1という過酷な世界でグラム単位の質量を削り出す唯一の解なのです

 
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この記事の監修・執筆チーム

GRM Consulting株式会社 解析エンジニアリング部

モータースポーツ最高峰のF1から量産車開発まで、20年以上にわたり構造設計・衝突・振動・流体解析に携わるスペシャリスト集団。 単なるシミュレーション結果の提示に留まらず、本記事のようなCAE最適化設計を活かした設計を得意とし、製造要件(鋳造・鍛造・押出成形・板金・CFRP)を考慮した「造れる設計」を提案しています。

  • 主要ツール:LS-DYNA, Abaqus, Genesis, Nastran, OptiAssist, Simcenter 3D
  • 専門領域:構造最適化、衝撃エネルギー吸収体最適化、CFRP複合材解析、衝突解析、CFD解析