今回は、ラフな3Dデータを使用してFIA Standard 8855-2021:Competition seatに適合するシートの設計を題材にします。
あくまでデモであり、細かい形状や材料の規制などについては無視しているため、設計の流れについてのみ参考にしてください。
使用するシートの3Dデータが以下です。
- シートシェル:
フリー素材として利用できる3Dゲーム用のポリゴンデータを加工して、強引にシェルを作成しました。
時間短縮のため3DCADは使用しなかったのでベコベコの形状があります。また、やたらと平面的な部分が多いです。
この後、このデタラメな形状による剛性不足で非常に苦労する羽目になりました・・・。
なお、若干のアンダーカットがありますが、強度上ほぼ影響がないようにしています。 - シートブラケット:
今回の設計対象ではないため、とりあえず、として作成しました。もちろん、CAEによる最適化により適切な形状や板厚が導出可能ですが、今回は割愛します。
以下では、シートシェルの基本断面を紹介します。

シートシェル全面に5mmのハニカムコア(Nomex)を使用しています。特に意味は無く、単純に厚みを増やしたかっただけです。本来であれば、ハニカムコアの厚みやコア範囲も最適化したいところですが、今回は割愛します。
初期の積層については、UDとClothを使用した中立面対称の積層になっています。使用材料はCloth2種類とUD1種類を使用します。いずれの材料も、弊社でLS-DynaのMATカードを同定した、実績のある材料(オートクレーブ成形向け)となります。材料の詳細は非公開です。
※本来であれば、使用可能な材料はFIAの技術規則で制限されていることに注意してください。
それでは、今回の評価対象になる境界条件と入力条件について以下で説明します。

境界条件は単純明快で、剛体定盤の上にシートブラケットを固定するだけです。

荷重条件は上記の3種類です。
- Side load:
3種類の入力治具で水平横方向に入力し、それぞれの最大変位が規定される。 - Raer load:
3種類の入力治具で水平後方向に入力し、それぞれの最大変位が規定される。 - Crush load:
両側から圧縮し、最低EA(エネルギー吸収)量が規定される。
上記からは、高剛性過ぎてもNGになってしまうことがわかります。早速、初期ラミネート状態で解析を実行してみましょう。初期ラミネート(積層)は以下のように剛性22Ply、シェル質量は10.4kgです。

以下が解析結果となります。まずは、最適化ソルバーで計算した、線形静的な解析結果です。いずれも非線形接触を使用して入力しています。


いずれのCAE結果も、破壊指数が1を超えており、最大変位は正しくないことが考えられます。Crush荷重については、線形静的解析では確認しようがないため、剛性確認として小さい荷重を与えたので破壊指数は低めです。この時点で、3Dモデルのデタラメな形状が悪さをして、強度に影響が出ていることがわかります。この時はまだ、デモ用モデルだからまぁいいか、と考えていました・・・。
さて、正しい強度/剛性を確認するため、LS-Dynaにて非線形領域まで計算します。


雰囲気で初期ラミネートを作成しましたが、Side load以外は試験をパスできることがわかりました。ただし、質量が10kg超えであり、CFRPなのに軽くないため最適化CAEにより質量を軽減しつつ、強度アップを図ります。
先ほどのCAE最適化ソルバー「Genesis」を使用して、ラフな積層最適化→詳細な積層最適化の2段階で最適化しました。最適化の流れは、以前紹介したCFRPチェアの事例と同様です。ラミネートの作成や最適化セットアップはもちろん、弊社オリジナルソフトのOptiAssistを使用しています。

質量は7.9kgになりました。ラフな積層最適化結果からプリフォームの形状を検討し、プリフォーム毎にあらかじめ分割してから積層最適化を実施したのが詳細最適化結果となります。合計厚みの制約や、変位量の制約、破壊指数の制約などを使用しています。
サラっと結果を記載していますが、3Dモデルの形状が悪かったため苦労しました。実はこの結果は、Genesisによる最適化↔LS-Dynaを3回繰り返した結果です。ベコベコの形状起因での応力集中による高い破壊指数と、やたらと平面的な形状による大きな面外変形(面の座屈)により、なかなか良い結果が得られなかったためです。
また、線形静解析のみで最適化したため、入力治具が接触する部分が極端に厚い積層になってしまっていることにも注目してください。
本来であれば、このタイミング以降からプリフォーム形状(型構成)や、積層構成(厚みや対称性)について製造メーカーと協議しながら進めることになります。
さぁ、ではこの結果を使用してLS-Dynaで確認解析を実行しましょう。


いずれの条件もFIA Standard:8855-2021で規定されている要求性能を満足することができました。実は、FIAによる要求性能に対して2倍程度の余裕があり、まだまだ軽量化の余地があります。(デモなんだから限界までやってよ、というツッコミは無しでお願いします)シート形状の悪さから、ある程度のところで急激に性能が落ちるため、苦労することになりました。以下の条件で再実行すると、質量6kg程度のフルバケットシートになる可能性が高いです。
- まともなシート形状にする(かなり大きい要因)
- コア形状とコア厚みの最適化(剛性アップが期待できる)
- 形状最適化によるビード形状の導出(剛性アップが期待できる)
さて、今回は、線形静解析CAE(Genesis)だけで最適化を実行し、非線形解析CAE(LS-Dyna)で確認計算を実行する。という方法で最適化してみました。見つかった課題は以下です。
- 実際の試験は非線形領域まで実施するため、ギリギリの性能にするのが難しい。
- 線形静解析による積層最適化結果が妥当なのか判断するのが難しいため、LS-Dynaの試行計算回数が増える。
- 線形静解析による最適化結果を手作業でLS-Dynaのモデル更新するのが面倒。(作業時間約10分程度)
作業時間は短いが、ジョブ投入して定時帰宅!ができない。
一番大きな課題は、「ギリギリの性能にするのが難しい」だと思います。上記の課題全てを解決する方法は、クラッシュボックスの最適化で紹介している「ESL-Dyna」を使用するか、未紹介の「OptiAssist for Abaqus」を使用することで簡単に最適化することが可能です。
OptiAssist for Abaqusの紹介(外部リンク)
今回は、ほとんどの最適化CAEユーザーが非線形ソルバーとの連携無しで最適化しているため、それに倣った方法で最適化しています。そのうち、ESL-DynaかOptiAssist for Abaqusを使用して限界性能を目指したシートの最適化を実施してみたいと考えているのでお楽しみに。