CFDを使用した車両エアロダイナミクス 隊列走行によるスリップストリームの効果検証

スリップストリームの空力解析モデル

本事例のトピック

  • 2台の車両による隊列走行(プラトーン走行)時の空力干渉効果を検証するため、CFD解析(流体解析)を用いて車間距離の変化が各車両の抗力係数(Cd値)に与える影響を評価
  • 解析の結果、車間距離0.2L(車長比20%)の近接走行において、後続車よりも先行車の空気抵抗が約40%と大幅に低減することを確認。後続車の存在が先行車背面の負圧領域(Wake)の発生を抑制するメカニズムを解明
  • 本解析で得られた傾向は、Edward Pettitt氏らによる先行研究(The Effects of Platoon Operation on the Aerodynamic Drag of a Heavy Truck)の結果とも整合しており、シミュレーション精度の妥当性が示唆された

今回の事例では、CFDの解析受託事例として、LS-DynaのICFDを使用して隊列走行について検証してみました。

レースではスリップストリーム、トーやドラフティングと言われるものです。後続車の空気抵抗が低減され車速が上がりやすくなり、オーバーテイクしやすくなると言われています。今回はスリップストリームによる空力解析です。

後続車についての言及が多いですが、先行車にも効果があることを知っていますか?

私はモーターサイクルでの経験(もちろんサーキットですよ)しかありませんが、先行車にも効果があることを体感できます。

先行車にはどのような効果があるのか、CFD解析を使用して確認してみましょう。

※今回の事例では抵抗係数(Cd値)のみを取り扱い、揚力係数(Cl値)については言及しません。別の事例で揚力係数についても取り扱う予定です。


【スリップストリーム解析モデルの設定】

ドラフティングの効果をCFD(空力)解析するための条件設定
図1:スリップストリーム(ドラフティング)の効果をCFD(空力)解析するための条件設定
等速で移動する2台の車両を0.2×車体長の間隔で並べた。今まさにあおり運転中。

AnsysウェブサイトのデモモデルDrivAer(https://lsdyna.ansys.com/drivaer/)を使用して、車両長さ(L)の1/5距離の位置(0.2L)に後続車を配置しました。あおり運転ですね!

DrivAerモデルから、車両センターでカットしたハーフモデルで計算します。また、スリップストリームの効果を確認するだけなのでモデルは一部簡略化しています。

【簡略化した内容】

  • エキゾースト削除
  • フロアトンネルを埋めてフラットボトムに変更

【スリップストリームCFD解析結果】

車速は16m/s(約57.6km/h)で、時刻歴ありの非定常CFD解析です。乱流モデルはVMS-LESとしました。定常/RANSモデルでも十分な気がしますが、このモデルでは本事例紹介以外でも使用するため非定常で計算しています。

以下2つのモデルを計算し、結果を比較してみましょう。

  1. 単独走行(1台)
  2. 隊列走行(2台)
スリップストリームの空力検証結果。圧力分布が変化していることが確認できる
図2:単独走行(左)と隊列走行(右)のCFD解析圧力分布結果
前側から見ると先行車は特に恩恵を受けたようには見えない。後続車のグリル付近は先行車に比べて明らかに圧力が低下している。

こちらはCFDによる解析結果の車両表面圧力コンターです。先行車の圧力分布は、単独走行と隊列走行であまり違いは無いように見えます。
グリル付近の圧力を比較すると、後続車の方が圧力が低いことがわかります。後続車にはスリップストリームの空力的な効果がありそうだということがこの圧力マップから確認することができました。

CFD解析受託事例。スリップストリームによる効果を圧力分布で証明したところ。先行車の背面部分圧力が上昇し、ドラッグ(抵抗)が低下していることが確認できる。
図3:単独走行(左)と隊列走行(右)のCFD解析圧力分布結果(車両後部)
スリップストリームによる効果を圧力分布で証明したところ。先行車の背面部分圧力が上昇し、ドラッグ(抵抗)が低下していることが確認できる。

単独走行と隊列走行での車両背面の圧力分布を見てみると、単独走行(左)に比べ、隊列走行(右)の方が車両背面の圧力が若干高くなります。隊列走行の場合は、先行車背面の負圧が低減されていることが確認できました。つまり、ドラッグ(抗力)が低下した。と言えそうです。

※センターカットしたモデルのため車両センターに不自然な圧力分布が見られますがデモモデルのためご容赦ください。

それでは、CFD解析結果から抵抗係数(Cd値、Drag coefficient)を確認してみましょう。

スリップストリームによるCd値の変化をグラフ化したもの。隊列走行時の先行車と後続車のCd値変化グラフ。先行車は単独時の60.9%まで抵抗が減少することを示している。
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図4:スリップストリームによるCd値の変化をグラフ化
隊列走行時の先行車と後続車のCd値変化グラフ。先行車は単独時の60.9%まで抵抗が減少することを示している。”

※もっと長い時間のサンプルを取りたいところですがデモモデルのためご容赦ください。

Cd値がほぼ定常となった時間(0.5~1.0sec)を切り出したグラフが上記です。

  • 単独走行したときのCd値・・・・・:0.284
  • 隊列走行している先行車のCd値・・:0.173
  • 隊列走行している後続車のCd値・・:0.274

なんと、Cd値だけで見ると、「2:隊列走行している先行車」が最も低いCd値になっている状態です。

単独走行している状態のCd値を100とした場合、以下のようになっています。

  1. 単独走行したときのCd値・・・・・:100
  2. 隊列走行している先行車のCd値・・:60.9
  3. 隊列走行している後続車のCd値・・:96.5

そんな馬鹿な!と思いませんか?一般的な感覚として、隊列走行の後続車が一番恩恵を受けると感じますがCFDの結果では、先行車の方が恩恵を受けている結果になります。

Cl値を比較すると、隊列走行の後続車が最もダウンフォースが低いのですが、とても小さい差なので無視できます。

ここで、同様のCFD解析を実行した先人の研究を確認してみましょう。(https://www.dynalook.com/conferences/16th-international-ls-dyna-conference/icfd-t12-2/t12-2-a-icfd-116.pdf)

Edward Pettitt, Max Resnick両氏の成果に依れば、隊列走行模擬CFD(定常解析)により以下のように報告されています。

スリップストリームの効果を検証した先行者の研究結果。今回の解析結果と同様の傾向にあることを示している。
図5:Edwardらによる先行研究の結果
今回の解析結果と同様の傾向にあることを示している。前後車両の車間距離により受ける恩恵が変化していることがわかる。
  • 横軸:先行車と後続車の距離(1.0=車両一台分の長さ)
  • 縦軸:単独走行を100としたときのCd値百分率
  • 赤破線(筆者記入):今回の事例と同等の状態

さきほどの本事例結果と比較してみると、隊列走行の先行車が最も恩恵を受けていて、後続車は単独走行とあまり変わらない。という同じ結果になっています。

また、トラック実車での別の研究(https://docs.nrel.gov/docs/fy15osti/62348.pdf)では、燃料消費率≒抵抗係数とすると、後続車の方がCd値低減効果は大きくなりますが、車間距離が詰まるケースでは先行車の方がCd値低減効果が大きくなります。先ほどのEdward氏らのCFD結果と同様の傾向にあります。

トラックのスリップストリーム研究。こちらも同様の傾向を示しており、今回の解析結果が正しい根拠の補完となる。
図6:Michaelらによる先行研究の結果
こちらも同様の傾向であり、車間距離が狭いときは先行車の方がCd値低減効果が高い。

これらの結果から車間距離が2.0車長以下では先行車の方が受ける恩恵が大きいというCFD結果になることがわかりました。

しかし、究極の隊列走行であるNASCARなどでは、先行車よりも後続車の方が恩恵を受けているように見えるので、今回のCFD結果は腑に落ちない部分が残る結果になりました。

CFDと現実(NASCAR等)の違いとして、

  • 車速が大きく違う
  • 理想的な環境ではない(CFDは風洞装置に近い理想環境)
  • タイヤの回転、地面の移動、サスペンションの動き
  • ダウンフォースやスリップストリームを意識したボディ形状  などが挙げられます。

実際に、FSI(流体構造連成)を使用したエアロデバイスの計算結果は、完全剛体のCFD結果と大きく違う結果になることが多いです。

流体解析受託。スリップストリームの効果による車両周辺の圧力を検証した結果。先行車は車両背面の圧力が大きく向上することでCd値を低下させ、後続車は車両正面の圧力が大きく低下することでCd値を低下させている。
図7:圧力とFlowpathの表示
車両センター断面の圧力分布と流れ。スリップストリームの効果が視覚的に比較できる。先行車も後続車もCd値低減効果を受ける。でも危険。

今回のような非定常ではなく、定常で計算すれば様々なパラメーター違いの傾向が確認しやすいため、速度違いなどを今後事例集にアップできたらと思います。

公道でスリップストリームの効果を体感するのは非常に危険なため、絶対に真似しないようにしてくださいね。

JAFに依れば60km/hで33.3m(7~8車体長)の車間距離が適切です。

その解析課題、GRMが解決します。

本記事でご紹介した「非定常のCFD解析」「詳細なエアロダイナミクス検証」を、御社の製品開発に適用しませんか?
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この記事の監修・執筆チーム

GRM Consulting株式会社 解析エンジニアリング部

モータースポーツ最高峰のF1から量産車開発まで、20年以上にわたり構造設計・衝突・振動・流体解析に携わるスペシャリスト集団。 単なるシミュレーション結果の提示に留まらず、本記事のような非定常の流体解析を得意とし、製造要件(鋳造・鍛造・押出成形・板金・CFRP)を考慮した「造れる設計」を提案しています。

  • 主要ツール:LS-DYNA, Abaqus, Genesis, Nastran, OptiAssist, Simcenter 3D
  • 専門領域:構造最適化、衝撃エネルギー吸収体最適化、CFRP複合材解析、衝突解析、CFD解析