本記事では、ロードバイク用のCFRPフレームを題材とし、限界まで軽量化を実現するための積層最適化プロセスを解説します。解析には、Abaqus環境に特化した複合材最適化ソフトウェア「OptiAssist for Abaqus」を活用します。
本記事のトピック:ロードバイク用CFRPフレームの積層最適化プロセス
- 複合材専用の最適化ソフトウェア「OptiAssist for Abaqus」を活用し、ロードバイク用CFRPフレームにおける複数荷重条件(ねじり、衝撃、疲労等)を考慮した積層最適化ワークフローを解説。
- 第一段階の「トポメトリー最適化(自由積層最適化)」により、各領域におけるロードパスの抽出および質量最小化を満たす初期の適正板厚分布を導出。
- 第二段階として、製造現場の要件を反映可能な「ユーザートポメトリー最適化」を適用し、強度制約を満足しつつ実際の積層作業が可能なプライ形状での軽量化(最終質量921g・・・フレーム+フォーク)を達成した事例。
なぜロードバイクのCFRPフレーム設計に積層最適化が必要なのか
CFRP(炭素繊維強化プラスチック)を用いた製品設計において、軽量化と高強度の両立は極めて重要なテーマです。特にロードバイクのフレームのように、複数の方向から複雑な荷重を受ける構造物では、繊維配向や積層順序の組み合わせが膨大な数にのぼります。そのため、従来の経験則に基づく手作業での設計では、複合材が持つ特性を最大限に引き出す積層構成を導き出すことは困難です。
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本記事では、初期のベースモデルに対する強度評価から始まり、自由積層最適化によるラフな最適化、さらには製造要件を考慮した「ユーザートポメトリー最適化」まで、CAEを活用した一連のワークフローを紹介します。既存の金属/樹脂材料からCFRPへの材料置換を検討されている方や、Abaqusを用いた複合材設計に携わる解析エンジニアの皆様に、実践的な設計手法の参考としていただければ幸いです。
Abaqusを用いた解析モデル構築とベースモデルの初期強度評価
本事例では、ロードバイク用CFRPフレームの軽量化を達成するため、OptiAssist for Abaqusを活用した最適化プロセスを順を追って解説します。
OptiAssist for Abaqusの概要と特長
【OptiAssist for Abaqusとは】
Abaqus環境における複合材設計に特化し、GRM独自開発の最適化ソルバーと直感的な設定が可能な専用GUIを統合した積層最適化ソフトウェアです。
CFRPの積層最適化では、プライ数、繊維配向角、積層順序、局所板厚など定義すべきパラメータが多岐にわたります。従来の解析環境では、設定の煩雑さや人為的な入力ミスの発生が設計プロセスにおける大きな課題となっていました。
OptiAssist for Abaqusでは、実績のあるOptiAssistシリーズ共通の操作体系を踏襲しています。積層構成の定義から、目的関数(質量最小化等)、複合的な制約条件(Tsai-Wu破壊指標、最大板厚等)の設定までを専用UI上で視覚的に完了させることが可能です。これにより、モデル準備に要する工数を大幅に削減します。
GRM独自ソルバーによる高効率な最適化ワークフロー
計算エンジンにはGRMが自社開発した複合材専用の最適化ソルバーを搭載しています。Abaqusによる高精度な応力・ひずみ計算結果と連動しながら、安定した収束計算を実行します。最適化完了後は、最適化された積層定義を含む更新済みインプットファイルが自動生成されるため、確認解析への移行をスムーズに行うことが可能です。
まず、最適化の起点となるベースモデルの構築について説明します。フレームのモデル化には、Abaqusの標準的な複合材シェルセクション(*SHELL_SECTION)を使用しています。初期モデルとして、内部にUD材(一方向炭素繊維材料)、最外層に保護および外観を目的としたクロス材(織物)を配置する積層構成を定義しました。このとき、特に強度は意識せず、積層最適化で候補となる材料を仮積層しただけのモデルです。
強度評価においては、ロードバイクの実際の使用環境を想定し、以下の4つの荷重条件を設定しています。
- Crank Torque(クランクペダリング時のねじり荷重)
- Fork Impact(フォークへの前方からの衝撃荷重)
- Frame Fatigue(フレーム全体の疲労荷重)
- Seat Vertical(サドルへの垂直荷重)
これらの荷重条件に対し、線形摂動ステップ(Linear Perturbation Step)を用いて初期解析を実行しました。非線形一般ステップも使用可能です。
初期のベースモデル解析結果として、Tsai-Wu破壊指数等を確認し、各荷重ケースにおいて応力が集中する箇所や、強度的に余裕のある領域を把握します。この初期評価が、次に行う積層最適化の基準となります。なお、制約条件として使用可能な破壊指数は本記事作成時点(2026年10月)でTsai-wu, Tsai-Hill, ひずみ, 応力が使用可能です。
疲労条件とフォーク衝撃条件で破壊指数1.0を超えており、適切な設計になっていないことがわかる。
最適化ステップ1:トポメトリー最適化によるロードパスの抽出
ベースモデルの解析結果をもとに、第1段階の最適化として「自由積層最適化(Free-laminate optimisation)」を実行します。このプロセスの目的は、フレームのどの領域にどれだけの繊維量が必要かという「ロードパス(荷重伝達経路)」を大まかに把握することです。
Free-laminate optimisation:
一般的なトポメトリー最適化を使用してしまうと、要素ごとに設計変数が割り当てられるため計算時間が非常に長くなります。そのため、任意のパッチサイズ(例えば25mm角など)で分割し、大まかな適正板厚分布を把握するために最適化します。パッチサイズの定義や分割は、OptiAssistのUIで指定すれば自動的にモデルに反映されるようになっています。
今まで好評だったOptiAssistシリーズのUIを踏襲。
複雑な積層構成を表形式で最適化設定できるため、セットアップが簡単。
OptiAssist for Abaqusのインターフェース上で最適化条件を設定します。本解析では、各領域において0から最大20プライまでのUD材を許容し、各繊維配向角が均等に配置されるようリンク条件を設定しています。 目的関数は「フレーム全体の質量最小化」とし、制約条件として前述の4つの荷重ケースに対するTsai-Wu破壊指標の上限値(Crank Torque: 0.6、Fork Impact: 1.0、Frame Fatigue: 0.6、Seat Vertical: 0.6)および、最大板厚(4.0mm)を設定しています。
質量は792g。小さいプライ形状が多く、製造することは難しい。
最適化が収束する様子(進行状況)は、UI上でリアルタイムで確認することができる。
このトポメトリー最適化の結果、制約条件を満たしつつフレーム+フォーク質量を792gまで軽量化する積層構成が算出されました。しかし、この段階の結果はあくまで板厚分布確認用であり、応力に応じて板厚が細かく変動するパッチ状の分布となります。そのため、このままでは実際のプリプレグシートの裁断や型への貼り込み作業が極めて困難であり、製造性を全く考慮していない状態になっています。
最適化ステップ2:製造要件を考慮した「ユーザートポメトリー最適化」
トポメトリー最適化結果で生じた「製造困難な細かいパッチ状の板厚分布」という課題を解決するため、第2段階として「ユーザートポメトリー最適化(User Topometry Optimisation)」を実行します。
この最適化では、あらかじめ製造現場での作業性(プリプレグの貼りやすさや型の分割)を考慮した「実用的なプライ形状(Ply patterns)」を定義します。プライ形状の定義は、Element Setsで定義します。Element Setsは、Abaqusフォーマットが使用できるプリプロセッサであればなんでも使用可能です。
Step1の結果を見つつ、製造メーカーと協議して決定したプライ形状を反映した。色ごとに一定の積層構成となる。
このプライ形状を定義する際、製造メーカーと、型割や現実的なプライ形状(プリフォーム形状)を打ち合わせで決めてから進めることを推奨します。
製造可能なプライ形状で、最小限の積層構成が導出された。
今回のモデルはCycle20で完了。8core, 5.7GHzの計算機で約12分で最適化計算が完了。
ユーザートポメトリー機能を利用することで、トポメトリー最適化で得られた力学的な最適解の傾向を維持しつつ、実際に積層作業を行える現実的なプライ形状へ落とし込むことが可能となります。結果として、剛性や強度の要件をクリアしながら、製造ラインへそのまま適用できる実用性の高いCFRPフレームの積層構成が得られます。
モデル更新:最終確認解析
最適化後モデルを、最終確認用の解析モデルにアップデートします。Step2で離散化最適化(Discrete optimisation)機能を使用していなかったため、中途半端な厚みのプライがあるためです。板厚最適化を使用しているため、「プライ枚数に換算すると0.65枚」など、中途半端な厚みの結果となります。離散化オプションを設定することで、プライ枚数ベースでの積層最適化も可能です。
解析モデルのアップデート(積層構成の反映)は、OptiAssist for AbaqusのUIから自動実行可能です。以下がアップデートしたモデルを使用して確認解析した結果です。
いずれの条件も要求性能を満足し、狙いの破壊指数以下の結果になった。最終的なCFRPフレームとフォークを合算した質量は921gとなった。
上記が、製造可能かつ目標強度性能を満足したCFRP製ロードバイクフレームの強度解析結果です。フレームとフォークを合計した質量が921gとなっています。一度最適化モデルを作成してしまえば、以下のようなバリエーション違いの設計もあっという間に完了します。
- フレームサイズ変更した時の積層最適化
- 想定荷重変更(使用用途や使用者による)の積層最適化
- 振動特性まで考慮した最適化(段差乗り越え時の共振など)
- ペダリング時の剛性特性を考慮した最適化
まとめ
今回の事例では、OptiAssist for Abaqusを用いたCFRP積層最適化をご紹介しました。OptiAssistシリーズ特有のユーザーフレンドリーな使用感はそのままに、Abaqusの計算能力を活かしながら積層最適化を実行できる環境が魅力です。
2026年度版のOptiAssist for AbaqusはまだExplicit(陽解法)をサポートしていませんが、順次サポート予定となっています。Explicitソルバー対応になった場合は、JIS D 9304やISO 4210-6で定義される衝撃試験も直接荷重条件に定義することが可能です。
受託サービスでは、LS-DYNA⇔GENESISリンクによる非線形動的課題の最適化により、JISやISOで定められる衝撃試験の評価および最適化設計が提供可能です。
OptiAssist for Abaqusの製品概要ページ
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この記事の監修・執筆チーム
GRM Consulting株式会社 解析エンジニアリング部
モータースポーツ最高峰のF1から量産車開発まで、20年以上にわたり構造設計・衝突・振動・流体解析に携わるスペシャリスト集団。 単なるシミュレーション結果の提示に留まらず、本記事のようなCAE最適化設計を活かした設計を得意とし、製造要件(鋳造・鍛造・押出成形・板金・CFRP)を考慮した「造れる設計」を提案しています。
- 主要ツール:LS-DYNA, Abaqus, Genesis, Nastran, OptiAssist, Simcenter 3D
- 専門領域:構造最適化、衝撃エネルギー吸収体最適化、CFRP複合材解析、衝突解析、CFD解析
