衝突解析受託事例 ー LS-Dynaを使用したポール側突(FMVSS214P, UNR135)の衝突解析

カムリのポール側突LS-Dyna解析結果

【本事例のトピック】

  • FMVSS214P(米国)およびUNR135(国連/日本)におけるポール側突試験条件の比較と整理
  • LS-Dynaを用いた低計算コスト衝突解析の設定:ダミー搭載しない簡易(MASS要素)モデルによる車両安全性能評価の検討
  • 実車試験と低計算コスト衝突モデルの比較

【ポール側突解析モデルの説明】

CCSA様が配布しているフルラップ前突モデルを使用して、ポール側突解析モデルを作成しました。本来であればダミーはWorld SIDなどを配置しますが、今回は配布データそのままに両全席にMASS要素が置いてあるモデルを使用します。

  • 今回のモデルと実車試験の相違点
  • CAEモデル:ダミーが両前席にMASS要素として配置
  • 実車試験:World SIDやES-2re(企画により違う)

ー 規格比較:FMVSS 214P vs UN R135 およびCAE解析条件 ー

比較項目 FMVSS 214P (米国) UN R135 (国連/日本等) CAEモデル設定
試験速度 32 km/h (20 mph) 32 km/h 32 km/h
衝突角度 75度 (斜め衝突) 75度 (斜め衝突) 75度 (斜め衝突)
使用ダミー ES-2re (50th男性相当)
SID-IIs (5th女性相当)
WorldSID (50th男性) 両前席にMASS要素を配置 (簡易モデル化)
主な評価項目 乗員傷害値 乗員傷害値 (乗員傷害値測定なし)
車体変形量・侵入量・ポール接触荷重など
図1:FMVSS214PやUNR135に代表されるポール側突試験の試験条件
32km/hの速度で75°の角度をつけてφ254剛体ポールに衝突する。主に乗員傷害値を確認するが、EVではバッテリーへの危害性のために車体変形量の抑制が求められる。

【ポール側突解析結果】

図2:ポール側突試験のLS-Dynaによる解析結果アニメーション
車体が「くの字」に変形し、ポールが室内へ侵入する。侵入量だけではなく、インテリアトリムの危害性やカーテンエアバッグによる衝撃吸収により乗員傷害値を低減させる。

LS-Dynaによる解析結果アニメーションは上図2のようになりました。非常に小さな接触面で大きな衝撃を受けるため、車体に対してポールが大きく侵入します。このアニメーションだけを見るととても心配になる変形具合ですが、実際には様々な技術により乗員への危害性を低減しています。逆に巨大なEVのストローク150mm程度になってしまう試験結果では加速度を考えると恐ろしくなります・・・。

ポール側突時における乗員傷害値低減のアプローチ

FMVSS 214やUN R135などのポール側突試験において、乗員保護性能(傷害値低減)を確保するために用いられる主要な技術要素は以下の通りです。

  • 車体構造によるエネルギー吸収(EA): Bピラー、サイドシル、クロスメンバー等が適切に変形することで衝撃エネルギーを吸収し、腹部・胸部傷害値およびHIC(頭部傷害基準値)を低減させます。
  • 拘束装置(エアバッグ)による保護: サイドエアバッグやカーテンエアバッグの展開により、乗員と車体構造物との直接接触を防ぎ、腹部・頭部への入力を緩和します。
  • 内装部品(EAパッド)の配置: インテリアトリム内に衝撃吸収部材を配置し、腹部・骨盤への局所的な荷重集中を抑制します。
  • シート骨格の剛性寄与: シート構造自体がキャビンの潰れ残し代(サバイバルスペース)確保に寄与し、腹部・骨盤等の荷重低減を図ります。

ではここで、実車との相関をみてみましょう。試験条件が完全一致ではないので精度については語りづらいところがありますが、側突試験用モデルがベースではないにもかかわらず中々よい結果になりました。ぜひYoutube等の試験結果も比較としてご覧ください。実車の試験データはNHTSAの資料DLページから取得しています。

図3:ポール側突試験の、LS-Dynaによるシミュレーション結果とNHTSA試験結果の比較
どちらもポール反力は200kN程度であり、タイミングも一致している。CCSA衝突モデルは、前突において同定されたモデルであるがポール側突でも高い相関を示す。ポール反力に急激なピークは見られず、非常に安定したEAであることがわかる。

上記図3が実車試験データとLS-Dynaによるシミュレーション結果のポール接触反力比較です。どちらもポール接触反力の最大値は200kN程度となっており、荷重が発生するタイミングは完全に一致しています。CCSAのフルラップ前突モデルはポール側突でも高い相関性を持ったデータになっていることが確認できました。実際の受託業務では、ダミーの傷害値判定やポール侵入量・駆動用バッテリーの安全性など、様々な項目を評価することになります。

今回のダミー非搭載モデルでは、ダミー障害値が見られませんが計算時間が早いため、主に以下のような設計にお勧めです。

  • ボディ全体のEA(エネルギー吸収量)の設計
    • ポール接触反力の設計
    • ポール侵入量の設計
    • フロア加速度
  • シート骨格やインテリアトリム、ドアの設計
  • 駆動用バッテリーケースの設計

このようにして、弊社では様々な衝突安全(法規や各種アセスメント)の評価及び最適化設計による改善を受託しています。乗用車からバス/トラック、小型モビリティまで様々な車両に対応します。
前例のない車両でも、類似車両のベンチマークをすることで開発初期から正しい構造を提案します。

衝突における安全評価においてお困りのことがあればお気軽にお問い合わせください


この記事の監修・執筆チーム

GRM Consulting株式会社 解析エンジニアリング部

モータースポーツ最高峰のF1から量産車開発まで、20年以上にわたり構造設計・衝突・振動・流体解析に携わるスペシャリスト集団。 単なるシミュレーション結果の提示に留まらず、本記事のような衝突安全にかかわる設計を得意とし、製造要件(鋳造・鍛造・押出成形・板金・CFRP)を考慮した「造れる設計」を提案しています。

  • 主要ツール:LS-DYNA, Abaqus, Genesis, Nastran, OptiAssist, Simcenter 3D
  • 専門領域:構造最適化、衝撃エネルギー吸収体最適化、CFRP複合材解析、衝突解析、CFD解析
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